ジェラルド専用の訓練場は城の敷地内の奥まったところにあり、石造りの円形ドーム状のもので、一人で使う分には広すぎるように感じる。壁には彼が厳選し、自ら手入れをしている様々な種類の武器が立てかけてある。
ここなら人もいないし、思い切り戦える場所だろう。
ジェラルドは立てかけてある武器の一つを選ぶ。彼の得意武器はエリゴスと同じく槍のようだ。ぶんぶんと振り、感触等を確かめている。
ナズナはというと、太腿に括り付けてあった母の形見の短剣を抜き、懐からカードを出した。そして、再び水妖族の神であるユーフェイを呼び出す。
「ユーフェイ」
『汝の望みは分かっておる。さあ、共に迎え撃とう、我が花嫁よ』
「はい。よろしくお願いします」
神妙に頷くナズナにユーフェイは不敵な笑みを浮かべる。彼がこうして戦闘に参加することは初めてなので、リュウシンが来る前に彼の能力を説明してもらうことにした。
「ユーフェイ、貴方の力を借りるとどういった魔法が使えるようになるのですか?」
『我は水に関する攻撃魔法や治癒魔法が得意だ。必要なら指定の者の身体能力を高めたりする補助も可能だぞ。
また、魔界の王や大地の精霊の娘のように戦士として戦わせることも出来る』
ほぼ何でも出来るユーフェイの能力にさすが神と言わざるを得ない。驚いているナズナを前に、ユーフェイは自身の両手から一対の剣を召喚する。剣の造りが違うのはやはり大陸の文化の違いだろうか。
装飾の多いこちらの大陸の剣に比べ、ユーフェイの召喚した剣はシンプルで無骨なものに思える。
『これが我の武器だ。故に、我を戦士として戦わせるなら前線に立たせるのが妥当だろう』
そこで武器の感触を確かめていたジェラルドがナズナに大股で近づいてきた。
ユーフェイの放つ威圧感に慣れてきたようで、最初に比べていつも通りの調子でいられるようになっている。ジェラルドの順応の早さにユーフェイは内心感心した。
ユーフェイを横目でぎろりと睨み付け、ジェラルドは素っ気なく言った。
「前線は私が引き受ける。貴殿は主であるナズナを守ることに専念するがいい」
『迎え撃つ敵が一人だった場合なら喜んでそうするが、今回は二人。
相手は相当の手練れの者。汝一人では荷が重い』
「二人…?リュウシン一人だけではないのですか?」
てっきり彼一人だけだと思っていたのだが、違うみたいだ。ジェラルドは自身の両耳で状況を把握していたため、知らなかったのはナズナ一人だけである。