騎士団の同僚であるヴィルヘルムと違い、ナズナと共に過ごした時間は短い。しいていうなら、ナズナの協力者が妥当なところだろうか。
しかしそれを素直に言うのも何だか馬鹿らしい気がしたので、ジェラルドは不敵に笑うことで答えを避けた。
「…ふん」
明確な答えが返ってこなかったからなのか、それともジェラルドの笑みが気に食わなかったからなのかリュウシンの凛々しい眉が吊り上がる。
ナズナに向けられていた殺気がジェラルドに向けられ、リュウシンの攻撃が先程よりも激しくなる。彼は何か勘違いしていそうな気がする。
しかし、そのおかげで攻撃の軌道が読みやすくなったので、そのまま勘違いさせたままにしておくことにした。
憎悪と殺気を拳に変えて、リュウシンはジェラルドに素早い掌底を何回も繰り出す。
「アイツに想いを寄せたところで無駄だ」
リュウシンの牽制とも取れる言葉に今度はジェラルドが片眉を上げた。
一瞬彼の言っている意味が分からなかった。だが、ある程度ナズナとユーフェイの間柄を把握しているので、おそらくリュウシンはそのことについて言及しているのだろう。
ナズナにはユーフェイという婚約者(みたいなもの)いるので、ジェラルドが想いを寄せても無駄だと。
一瞬心のどこかでぎくりと動揺するが、リュウシンの攻撃をどうにか槍の柄の部分で防ぐ。
「…知っている。あの得体の知れない者とナズナが、どういった関係にあるのかをな」
ただし、それはナズナ自身が望んで結ばれた関係ではないことも。
ジェラルドの返答にリュウシンは鼻を鳴らす。自身が崇める神を、得体の知れない者呼ばわりされて不快に思ったが、ジェラルドが意外にもナズナとユーフェイの事情を把握していることに満足した様子だった。
「だったら、オマエはこれ以上関わらない方がいい」
予期せぬ言葉にジェラルドが怪訝な顔をする。彼の言葉は、牽制と言うよりも警告のように感じた。
「どういう意味だ?」
思わず聞き返したジェラルドを無視し、リュウシンは瞬時にしゃがみ込んだ。そして流れるように足払いし、ジェラルドがバランスを崩したところでさらに追い打ちを掛けようとする。
彼は咄嗟に槍を支えにし、ぐるりと身体を回転させてリュウシンの横面を蹴り飛ばす。
勢いはあまりなかったものの、どうにか追撃を逃れることが出来た。
リュウシンは彼に蹴られた際に口の中を切ったのか、起き上がった拍子に咥内に溜まった血を大理石の床に吐き出す。
彼の緑の瞳が怒りでさらに燃え上がった。片手をジェラルドに向け、手首から銃口を出現させて発砲する。