その流れ込んでくる想いは一体何を意味しているのだろう。彼の昏い想いにナズナは戸惑った。
先程取り戻した記憶を覗いて見れば何か分かるかもしれないが、今はそれどころではない。
そっと横目でユーフェイの表情を窺ってみる。しかし丁度ナズナの方から見ると、眼帯しか見えないため分からない。唇は真一文字に結ばれている。
ユーフェイはジンフーの質問に答える気がないようだ。それでもジンフーは辛抱強く神を説得しようとしている。
「ユーフェイシンジュン様、どうかツァンフー帝国のためにもせめて貴方だけでもお戻り下さい!」
途端、ユーフェイの心から怒りが生まれ、ナズナへと流れ込んできた。
『我はシェンジャと一心同体。そのようにしたのは汝らだ』
どうしてそこまで頑なにツァンフー帝国へ戻ることを拒むのか。ナズナの頭の中に彼への疑問が浮かぶ。
ひょっとして、ユーフェイは水妖族を憎んでいるのだろうか。
『違う』
ナズナの疑問に答えるように、彼は即座に否定した。ユーフェイにもナズナの考えていることが分かるようになっているらしい。
否定したということでナズナは何となく安心した。表で語らない分、心の中でユーフェイは雄弁に語る。
『我は帝国の自然や動物達を見捨てるつもりはない。何故なら彼らを愛しく思っているからだ』
ナズナに心で語りながら、ユーフェイはジンフーの短剣を双剣で弾き飛ばした。
自身の得意武器を手放してしまったことにより、ジンフーは舌打ちして後方に大きく飛び退く。攻撃を防ぐ札は全て使い切ってしまったようだ。
ユーフェイの帝国への想いを耳にしてナズナはますます首を傾げる。
そんな彼女の気持ちを受けて、記憶の欠片が強く光を発した。この輝きは自身の記憶が蘇る時のものだ。
こんな切羽詰まった状況の中で取り戻すなんて、とナズナは驚いたが、それだけ彼女の真実を知りたい気持ちが強いと言える。
記憶が蘇りつつあるので、視界がだんだんぼやけてきた。
『ナズナ!』
ユーフェイが叫び、戦っていたリュウシンとジェラルドが何事かとナズナ達の方を振り返る。
水妖族の神の花嫁は目を伏せ、大理石の床に膝をついていた。彼女の集中力が途切れつつあるため、ユーフェイの姿が半透明になりかけている。
仮に今召喚している者が神威やエリゴス、そしてメルセデスだった場合、この時点で強制的にナズナの中へ還されている。そうならないのはユーフェイの魔力と、神威達とは違う契約の結び方のおかげだろう。
ぎりぎりのところでユーフェイは踏み止まり、花嫁を守るために剣を振るう。