とある街のレストランでトレーナーの男女が一服していた。
少年は前髪が緑、後ろは黒色の髪で、鞭を持っているのを見ると猛獣使いのようだ。
少女の方は長い青髪を揺らし、美味しそうにパフェを頬張っている。
隣にはサンドパンを座らせているが、刺の色がルビーのような鮮やかな赤の色違いのサンドパンだ。
「アキラは食べないの?ここのパフェ、超美味しいんだよ~」
「……メグミさぁ、エリートトレーナーの風格ないよな……。普通にミニスカートとかにしか見えないぞ」
「なにそれーっ!超失礼~!ちゃんとエリートの資格あるわよーっ!ねっ、クロスっ?」
メグミは食べる手を止めて文句を言うが、確かに彼の言う通り、膝上のスカートにポケモン・デジタル・アシスタント……通称P★DAを腰に付けてパフェなんか食べていたら、まずエリートトレーナーには見えないだろう。
ちなみにクロスとはサンドパンのニックネームである。
「資格じゃなくて風格だっつーの。ったく、ここ最近ロケット団が襲って来ないからって、気を抜きすぎなんじゃないのか?」
「たまにはいいじゃない!あっ、お姉さーん!お代わりお願いしまーす!」
「はあ……」
……そう、メグミはひょんな事から伝説のポケモンの1つ、ファイヤーのタマゴをゲットし、それを狙うロケット団に毎日のように襲われていた。
アキラはそんな彼女のいきさつを知り、自ら護衛を名乗り出たのだが、最近は奇襲される事が少なくなった。
しかし気を抜いた時が危ないと構えるアキラだった……が、目の前で美味しそうに食事を口へ運ぶメグミを一瞥して浅い溜息を吐く。
しかし当の本人は
「今までたくさん頑張ったから、きっと神様がお休みをくれたんだよ」
と楽観的に言い、アキラはまた溜息を吐いた時だった。
「失礼致します。当店の一番人気のレインボーパフェをお持ちしました」
し 2人の座るテーブルに持って来られたのは、七色に輝く大きなパフェ。
注文していない品にメグミは唖然とするが
「お客様がとても美味しそうに食べていらしたので、シェフからのサービスですよ」
と微笑み付きで言われた。
これを聞いたメグミのスプーンを握る手が震える。
(注文通りに欲しいって言うんだろうな……)
注文前に
「この店のショートケーキが話題だから、絶っ対に食べたいの!」
と言っていたのを、頬杖をつきながら思い出すアキラはそう考えていたのだが、メグミの口から出た言葉は全く違った。
「……甘い苺と桃、ブルーハワイに濃厚なメロンとグレープに加え、オレンジとレモンのキュッと締まった酸っぱさが何とも言えない、超人気のレインボーパフェが私の前に……!」
……どうやら食べる気満々らしい。
アキラは手元が滑ってテーブルに顔をぶつける。
「ど、どうしようアキラ~!このパフェって、超レアなんだよ~!?タダで貰っちゃっていいのかなぁ~っ!?」
「好きにしろよ……」
心配してる割に口元が緩んでいて、食べたい気持ちが丸出しだった。
これでアキラの溜息は3回目。
「それじゃあ……」
メグミは揚々とパフェにスプーンを入れ、七色に輝くアイスを掬ってみせた。
「いっただっきま~す!」
ついに高級デザートの感動が、彼女の口の中に広がろうとした……のだが。
『ガシャーーーンッ!!』
突如、店内でゴロツキが乱闘を始め、殴り飛ばされた1人がアキラ達のテーブルに落下、ぶつかって来た。
驚いた客は悲鳴を上げて逃げ出したり、怖くて動けない者もいる。
アキラ達はというと……。
「イテテ……。くそっ、あいつら……周りの事はお構いなしだな~!メグミ、大丈夫か?」
アキラは向かい席のメグミに声をかけるのだが、彼女の姿を見て硬直した。