風を切る音が耳を抜ける。
ワタルとアキラは焦りからか、しばらく黙ったままだ。
俯きながら、彼女が拐われた悔しさをぶつけて傷だらけになった拳をギュッ握り締めると、2人を乗せたカイリューとリザードンが気配を感じて突然顔を上げた。
「どうしたリザー……」
言いかけた時、真上から謎の光が放たれた。
不意打ちの攻撃ゆえに直撃を受け、カイリューとリザードンは虚ろな眼で羽ばたく力を失った。
景色は一転、水平線に向かっていたのが真下の地面に変わる。
「リザードン!?」
「くっ……!今のは怪しい光だったか!!」
少しでも衝撃を和らげようと考えたワタルが叫んだ。
「カイリュー、冷凍ビーム!リザードンは火炎放射!!」
無理矢理に目を見開き、2体は地上に向かって技を放つ。
……が、リザードンの火炎放射は違う方向に外れ、落下地点は分厚い氷の床になった。
このまま落下すれば、ひとたまりもない。
「フシギバナ!蔓の鞭で受け止めてくれ!!」
アキラは咄嗟の判断でフシギバナをボールから出して蔓の鞭を指示した。
8本の鞭を素早くカイリューとリザードンの体に巻きつけると、フシギバナはそのままゆっくりと地面に降ろす。
「サ……サンキュー、フシギバナ……。お蔭で助かったぜ……」
「ありがとう、アキラくん、フシギバナ。……すまない、俺の指示が至らなかったばかりに……」
「そんな……!混乱してたんだから、それは仕方が……!」
その時、背後からの電磁波にカイリューとリザードンが撃たれた。
「!?」
振り返った先の茂みから現れたサンダースの体はバチバチと電気を残し、アキラ達を威嚇しながら唸る。
「麻痺してカイリュー達は動かせない……。やむを得ないが、ここからは自分の足で進むしかないな」
「くそっ……!こんなところで時間を喰うなんて……!」
アキラは悔しさを露わに、手のひらに拳をぶつけて嘆く。
こうしてる間にもメグミの安否が気遣われるというのに……。
「お前に構ってる暇はないんだ!そこを空けろ!」
サンダースが一向にどける気配を出さずにいると、空から大きなものが飛んで来る。
飛んで来たのは怪しい光を放ったクロバットだ。
どちらもイッサのポケモンだが、2人はその事を知らずにただ『ロケット団のポケモン』という認識でしかない。
「時間稼ぎのポケモンか……」
ワタルが察する中、不似合いなエンジン音が迫って来る。
そしてけたたましい音を立てながら崖を飛び越え、1台のバイクが現れた。