背後から噴き上がる高熱の爆炎と無数の瓦礫は、逃げ切れない距離にまで迫っていた。
間違いなく直撃を喰らうと本能で察したアキラは、咄嗟にメグミを守るように彼女を抱きしめ、すぐに襲い来るだろう熱と衝撃に耐える為にきつく目を閉じる。
―――だが、予想していたものは一向に感じない。
恐る恐る瞳を開けると、自分達を乗せるリザードンを包むように光る緑色の球体を見た。
「これは……リザードンの守るか……!!」
2人を守る為、リザードンはほとんどの攻撃の威力を無にする防御技を使用したようだ。
これで瓦礫などを心配する事はないが、勿論デメリットはある。
連続の使用が出来ない事だ。
「……っリザードン、急いでくれ!!」
技の効果がなくなる前に脱出しなければならない。
アキラは振り落とされないよう、リザードンにしっかりと縋った。
けれど外の光はなかなか見えない。
崩れた瓦礫で出入口が塞がれたのだろうか……。
「リザードン、道を作ってくれ!」
放った炎で瓦礫を壊すと、ぽっかりと白い光の穴が姿を現した。
「出口だ!!リザードン、もう一息だぞ!!」
もう一度ひしと気絶したままのメグミを抱え直し、アキラは光をじっと見据えた。
だんだんと大きくなる光に比例し、アキラの期待も膨らんでいく。
もう少し……。
もう少し……!
光が視界いっぱいに広がった瞬間、突き抜けるような空の青が拓けた。
「外だ……!やったなリザードン!!」
崩壊した研究所から脱出し、手放しで喜ぼうとするアキラだったが、小さく響く地鳴りを聞くと表情を凍りつかせる。
リザードンが空けた穴から新鮮な空気……つまり酸素が入り、深い所からまた大きな爆発が起きていたのだ。
それに気づいて研究所を見下ろすと、真っ赤に熱した炎柱がリザードンごと飲み込もうと、天高く伸びて来ていた。
「まずいっ……!!リザードン、守るだ!!」
リザードンは技を発動させようとするが、緑の膜は硝子のように崩れて消えてしまった。
万事休す。
アキラとリザードンがそう思い、炎に飲まれようとした瞬間、見えない力に突然引き寄せられた。
間一髪で炎を交わし、地面ギリギリまで引っ張られたところで解放されたリザードンは、体勢を整えて何とか踏ん張る。
地面には深く食い込んだ爪の跡が長く伸びていた。
しばらく呆然とするアキラとリザードンは、驚きから目を丸くして互いを見合った。
「今の……何だったんだ……?」
「戻れ、メタグロス」
イッサは木の上からボールを翳すと、大きく息を吐いてヘルメットを外した。
「はあ……、俺も人が良すぎるよなぁ……。敵を助けてどうするんだよ……」
がしがしと頭を掻くイッサは研究所に到着した際、偶然リザードンに乗ったアキラ達を見つけて、炎に飲まれる直前にメタグロスのサイコキネシスで彼らを守ったのだ。
けれども今考えると「何故」「どうして」と、後悔の念が体中に広がった。
「……やっちまったもんは仕方ないか……。お姫サマを助けてもらった借りはこれでチャラだぜ、王子サマ」
微苦笑を浮かべるイッサだが、その笑みはすぐに消え去る。
全く繋がらなくなった無線を手に、形を失った研究所を真剣に見つめた。
「バショウもブソンも……一体どうしちまったんだよ……」
その答えを知る者は彼の傍にはいなかった。