それはまるで夢のような出来事だった。
絶対に起こるはずのない、現実では考えられもしない事だった。
「そんなっ……バカな……!?」
「タマゴから……」
「バンギラスが生まれた……!?」
普通ならばタマゴから生まれるポケモンは未進化の姿の筈なのに、目の前にいるポケモンは違った。
ヨーギラスとして生まれるはずが、最終進化形態のバンギラスの姿で5人の前に立ち塞がる。
更に通常の体長は2メートルなのに、このバンギラスは3メートル近くもある。
威圧感は著しく増すばかりだ。
「どうだ?素晴らしすぎて声も出ないか?」
ナナミは得意そうに言い放つ。
「メグミ、アキラくん……。この戦いはポケモンバトルではない……!負けたら次はない、そのつもりで戦うんだ!」
「そう……だよね……。あのナナミが正々堂々とバトルをするはずがないもんね……!」
ワタルの言葉に、メグミは3つのモンスターボールを手にした。
「負けられないんだもんね、私達……!!みんな、出て来て!!」
投げたボールからはレーベとアリス、そしてカメックスのグラシアが現れた。
「……だよな。第一、あんな奴を野放しに出来るはずもないし……なっ!」
アキラもまた、メグミと同じく手持ちのポケモンを繰り出す。
「バンギラスは岩と悪タイプ……。格闘タイプの技なら4倍のダメージを与えられるわ」
「弱点も多い!全員で総攻撃だ!!」
いくら巨大でもポケモンはポケモン。
弱点を突けば崩れるはずだ。
ハイドロポンプや葉っぱカッター、瓦割りなどの技で一斉に攻撃を計り、バショウ達もハガネールとエアームドに鋼タイプの技を指示を出す。
この攻撃の嵐を受ければ、ひとたまりもないだろう。
―――普通のポケモンならば……。
「……無駄な事を……。邪魔物を薙ぎ払え」
バンギラスが吠えると砂嵐が吹き荒れた。
その威力は一番大きなハガネールすらも怯ませる程に強烈で、地面や鋼タイプ以外のポケモン達はたやすく吹き飛ばされてしまった。
「特性の砂起こしか……!!」
「無茶苦茶よ、あのバンギラス……!!」
ワタルに守られながらメグミは悔しそうに奥歯を噛んだ。
「無茶でも倒すっきゃないだろ!一斉攻撃がダメなら、これでどうだ!!」
アキラが指示した技は水の波動とシャドーボール。
水の波動は波状ではなく、シャドーボールと同じ球体のまま放たれた。
2つの技がぶつかり合った瞬間に、暗褐色の電気を帯びた波になってバンギラスに襲いかかるが、このコンビネーション技に対してバンギラスは岩なだれを繰り出す。
水と岩なら水タイプが有利なのだが、バンギラスはそれをパワーで強引に押し切った。
多数の岩達は波動を飛沫に変えながらも威力を殺さずに技を放ったボスゴドラとバァン、更には後方に控えていたメグミのポケモンにもぶつかる。
「みんなっ!!……っ!!タイプがダメなら、威力で勝負よ!!アルダ、オーバーヒート!!」
メグミの声に呼応するように、アキラのバァンもオーバーヒートを放つ。
2つの火炎は束になってバンギラスの懐にクリーンヒットするが、巨大な体はびくともしない。
「メグミとアキラくんの二重攻撃も効かないのか……!?」
「中途半端な攻撃じゃ意味がねぇ!エアームド、鋼の翼!!」
「ハガネール!アイアンテールです!!」
今度はブソンとバショウのコンビネーション技が向かう。
だがナナミは攻撃の指示を出さずに、ただ手を後ろで組んで2体が迫るのを傍観していた。
その意図は『諦めた』などではない。
「……見せてやれ。何をしても無駄だという事を……」
防御を固める訳でもなく、無気力に佇みエアームドとハガネールの攻撃を受けるバンギラス。
「やった!ヒットしたわ!」
「エアームド!たたみかけろ!!」
ハガネールはサポートに回り、バンギラスを締めつける。
更にブソンが命令した技は岩砕き。
岩と悪タイプのバンギラスが受けたら、強大なダメージを負うのは確実。
メグミやアキラ、ワタルが勝利へ近づいたと安堵の表情を見せた瞬間……。
「……っ!!ブソン!!エアームドを戻して下さい!!」
バンギラスの動きから察したバショウが今までになく声を張るが、もう遅かった。
「燃やし尽くせ……!!」
バンギラスを核に爆炎が吹き上がり、真夜中の空を赤く染める。
「火炎放射……いや、大文字か……!?」
「でもあんな技の使い方……!」
悪夢に飲まれた5人が我に還ったのは、至近距離で技の直撃を受けたエアームドとハガネールが戦闘不能になり、地面に倒れたのと同時だった。