人気のない山のさらに奥。
地図でもほとんど未開の地にそれはあった。
崖上にぽつんと建つ小さな研究所。
それとは不釣り合いな大型ヘリが研究所に向かって来ていた。
「ほう……、さすがは隊長クラスだな。見事に時間通りだ」
研究所の一室からヘリの到着を待つのは、白衣を纏った分厚い眼鏡をかけた男。
どうやら彼が博士か研究員のトップらしい。
「Drナナミ、ヘリポートを開きますので許可を!」
側近の部下が敬礼して言うが、返って来たのは気の抜けたような台詞だった。
「ヘリポート?……ああ、好きにすればいいさ。必要ないだろうがな」
「は……?」
部下は言葉の意味が解らずに、そのまま立ち尽くしてしまう。
そんな部下を1人残し、ナナミは研究所の外へ足を向けた。
彼らは言わずと知れたロケット団。
カントーやジョウトにいくつもの支部や部隊を持ち、数々の悪行を繰り返して人々に恐怖を与える存在でもあった。
今回は伝説ポケモン捕獲の任務を担った部隊の隊員が来るという事だが……。
ちょうどナナミが研究所前に着いた頃、ヘリの搭乗口が静かに開いたところだった。
まだ辺りには砂埃が舞い上がっており、景色が土色に霞んでいる。
「ヘリポートがいらないって言ったのはこれだからか……」
先程の部下は漸くナナミの言葉を理解した。
ヘリポートよりも広い荒れ地に着陸したのを見て、操縦者の荒っぽいものを感じたのだった。
「確かに必要ないな……。……ん?」
最初は呆れ返る部下だが、搭乗口から降りて来た人物を見て激しい驚きを隠せなかった。
(あ、あの人はまさか……!?)
特務工作部と一部のロケット団員の間で噂になっている人物が今、彼らの前に現れようとしていた。
まず降りて来たのは、かなりがっしりとした体格の金髪の男で、見るからに悪びた感じだ。
彼がヘリの操縦をしていたのが見ただけで分かる。
サングラスの下から鋭い目つきで辺りを睨み回すと、後から来た相棒に軽く合図を送った。
合図を受けて出て来たのは、グレーと銀を混ぜたような長髪の少し細身の男だ。
彼もまた冷たい瞳で辺りを一望する。
「君達が今回の任務の担当者かね?」
ナナミは後者の男に尋ねる。
「特務工作部から派遣されました。私がバショウ、こちらがパートナーのブソンです」
「まさかこんな寂れた研究所をカムフラージュにするとはな。何かの間違いかと思っちまったぜ」
ブソンはナナミの知恵を挑発的に、かつ嫌味たらしく誉めそやした。
「私の自慢の研究所だ。私はDrナナミ。主にポケモンの卵を研究している」
「それで、俺達が駆り出される程の任務って何だ?」
「そんなに急く事もあるまい。基地に行ってから話そう。来たまえ、こっちだ」
2人を基地へと案内するナナミだが、その裏では彼らに対する黒い思いが積もっていたのだった。
(駒は駒なりに働いてもらうとするか……。特務工作部だろうが何だろうが、私の偉大な功績の為に地べたを這いずり回ってもらおうじゃないか……)
広大な荒れ地に砂嵐が舞い上がる。