砂漠に覆われたオーレ地方の中、豊かな自然に囲まれた集落があった。
ここがアゲトビレッジ。
流れ落ちる大きな滝と巨大な木が、この村を彩っている。
その村の一番高い場所の家にて、オレンジ色の髪の少女が遠くから聞こえるバイクの音にいち早く反応した。
「この音は……」
ベッドの上で読んでいた本を閉じると、家の階段を慌てて駆け降りる。
「あら。今から出かけるの?」
祖母に声をかけられた少女は一旦足を止めた。
「うん!すぐ戻るから!行ってきまーす!」
元気を振り撒いて家を飛び出す少女は一目散に村の入り口を目指して走る。
その頃、シャドーの戦闘員6人兄弟を撃破した一行はアゲトビレッジに到着しようとしていた。
「砂漠の中にあんな緑の場所があるんだな~!」
「アゲトには植物が育ちやすい環境があるからな」
感嘆の声を上げるアキラに、レオが簡潔に答える。
「そういえば……メグミさん達はアゲトビレッジに何の用があるんですか?」
前で運転するリュウトから投げかけられた質問を受け止めるメグミは、ヨーギラスを抱え直して言った。
「ヨーギラスの心の扉を開く為に……ね。それで、アゲトビレッジにある祠を見に……」
するとリュウトは首を傾げる。
「メグミさんのヨーギラスにオーラサーチャーが反応してないけど……」
「……色々あって、心を閉ざしちゃってるんだ」
ヨーギラスの事も考え、あまり多くは語らなかったメグミの意思を察して、リュウトもそれ以上の事は尋ねず、代わりに
「メグミさん、早くヨーギラスの心が開くといいですね!」
と、明るく言った。
そうしている内に、バイクが走る場所が砂地から芝生のような色に変わる。
「着いたぞ!」
「ここがアゲトビレッジだよ!」
バイクから降りたメグミ達は同じように空を見上げた。
「でっけぇ木だなー……。根が集落のあちこちまで伸びてやがる……」
ブソンが言うように、村の頂上にある木が一際目立ち、その下の家や川にまで根を下ろしている。
「あの一番大きい木は家で、伝説のトレーナーと呼ばれるローガンさんが住んでるんだ」
リュウトの言葉にバショウが反応して、荷物の中からガイドブックを取り出した。
「前にバショウが見せてくれた写真の人ね」
「そうみたいですね。“オーレ地方では、その名を知らない者はいない程の実力を持つトレーナー”とありますが……」
桟橋でそう話す彼らの下に、ブーツで走る音が近づいて来た。
そちらに目をやると、少女がオレンジ色の短いツインテールを揺らしながら自分達に向かっているところだった。
「レ~オ~ッ!!」
名前を叫びながら遠くから手を振る様子に、アキラはレオに尋ねる。
「レオの知り合いか?」
「知り合いも何も、アイツは……」
言いかけようとした時には少女はレオの前に急停止して、怒った顔を彼に向けた。
「もうっ!いつも1人で勝手に行って!!私を置いて行かないでってあれ程言ってるじゃない!!」
「何度も言わせるな、ミレイ。今回は危険が多すぎる」
「危険な目になら前に経験してるから大丈夫よ!レオってば本当に……あら?」
ミレイと呼ばれた少女はレオの後ろで気まずそうに笑うアキラ達に気づく。
「レオの友達?」
驚いたように言うミレイ。
「わ~!レオが誰かと一緒にいるなんて珍しい~!私はミレイ!よろしくね!」
「……ミレイ、こんな場所で1人1人に自己紹介をさせる気か?」
呆れたレオの言葉にミレイもハッとして頭を掻いた。
「あ……それもそうよね」
ペロッと舌を出して恥ずかしそうにミレイは言う。
「まあ……ミレイだけの紹介だけならいいか。ミレイは一応……俺のパートナーだ。前にシャドーからダークポケモンをスナッチをするのに一役買ってくれたんだ」
「一応なんて失礼ね~。私がいなかったらレオは……」
胸のところで腕を組んでそっぽを向いて怒るミレイ。
そんな彼女の目に、あるポケモンが止まった。
「わあ!可愛い~!ヨーギラスなんて珍しいわね!あなたのポケモンッ?」
「え、ええ……」
うろたえるように答えるメグミ。
決してミレイに驚いた訳ではない。
目線を合わせようとしゃがんだミレイを怖がって、自分の足に飛びついたヨーギラスにだ。
「あ……驚かせてごめんね。……うん!やっぱりポケモンはこうでなきゃ!ダークオーラを纏ってるポケモンなんて、可哀相だもんね!」
「えっ?」
ミレイの言葉にレオ以外の全員が首を傾げる。
どうして彼女は、ヨーギラスがダークポケモンではないと言い切ったのだろうかと。
「みんな、色々聞きたい事があるだろうが、一先ずミレイの家に行こう。ポケモン達も休ませたいしな」
それぞれの思惟を察してレオが促し、一旦メグミ達はミレイの家へと赴いた。