場所を移動したバショウとメグミはアゲトビレッジから離れ、広大な砂漠の一角で向かい合っていた。
「ルールはダブルバトル。どちらかのポケモンが2体共、戦闘不能になるまででいいですね?」
「OK。バショウはポケモンを2体しか持ってないから、先攻は私が……」
言いかけ、ボールを取り出すとしたところに、バショウが腕を伸ばす事でそれを制止する。
「あなたには、バシャーモを出していただきたいのですが」
「アルダを?……別にいいけど、もう1体は?」
「バシャーモがいるなら、あとは何でもいいです」
「それなら……この子で久しぶりにバトルしよっかな。アルダ!アリス!バトルオン!!」
投げられた2つのボールから光がほとばしり、彼女の自慢のポケモンが現れる。
「もう1体はラルトスですか……。ハガネールには効果抜群の技は使えないはず……。警戒するのは、やはりバシャーモの方ですね」
バショウはそう呟きながらハガネールとジュカインのソプラをバトルに出す。
「そう?アリスはこう見えて、もうサーナイトになっててもいいレベルだから、甘く見てると痛い目見るかもよ?」
「サーナイトに……?何故進化をさせないんですか?」
「それは、バショウが勝ったら教えてあげるよ」
自信に満ちた笑みでウインクをする少女。
勝利を確信している雰囲気に、少しだけ眉根を寄せる。
「さあ、どこからでもどうぞ!」
「……それでは遠慮なく行かせていただきます。ハガネール、砂嵐!」
ハガネールの得意戦法で、天候は砂漠に相応しい砂嵐に変わる。
鋼と地面と岩タイプ以外のポケモンにダメージを与える、厄介な技だが……。
「こっちにもダメージは勿論あるけど、ソプラは草タイプ。ソプラもダメージを受けちゃってもいいの?」
メグミの言葉に一瞬だけ言葉を詰まらせるバショウだったが、すぐにいつもの冷たい口調で言い放つ。
「飽くまで私は勝つ事を望みます。その為ならば、多少の犠牲も厭わない……!」
それが自分の戦い方だ、と言われたメグミはムッとしか顔で言い返した。
「だったらどうしてダブルバトルを申し込んだの?これじゃあシングルバトルと一緒じゃない。ただオーレ地方がダブルバトルがメインだから、私達はただその練習相手って事?」
「…………」
押し黙るバショウ。
それに対してメグミは溜息を吐くと、キッと引き締まった表情に変える。
「アリス!サイコキネシスで砂嵐を消して!!」
アリスの頭の角が光ると、砂の渦がせき止められて一瞬で掻き消されてしまった。
チャンス到来。
拳を突き出すメグミの指示が飛ぶ。
「今よアルダ!ブレイズキック!!」
炎を纏った蹴りがソプラに命中する。
効果抜群の技に大きくのけ反るソプラだが、何とか堪えて体勢を直した。
「ハガネール!噛み砕く攻撃!!」
巨大なハガネールが小さなアリスに迫る。
「テレポート!!」
絶妙のタイミングで出された指示にアリスは柔軟に従い、寸前でハガネールの攻撃を交わすと、そのハガネールは勢いを抑えられずに地面にぶつかってしまった。
「アイアンテールで2匹共吹き飛ばしなさい!」
「アルダ!スカイアッパーで応戦して!!」
鋼と格闘技でなら、アルダの方に分があった。
弾かれて姿勢を崩したところに、メグミは容赦なく攻撃を指示する。
「アルダはオーバーヒート!!アリスはサイコキネシスで援護して!!」
放たれた猛火がまずソプラに直撃し、そのまま彼を飲み込んだ炎は直線状に伸び続けた。
「ハガネール!岩落とし!!」
バショウの命令でハガネールは付近にあった岩を砕いてアルダを吹き飛ばす。
「アルダッ!!」
「そのままアイアンテール!!」
仰向けに倒れたアルダに、鉄蛇ポケモンの鋼の尾が迫る。
体勢や距離からバショウは間違いなく倒せると確信し、メグミも回避が不可能だと判断した。
「これで決めさせていただきます……!ハガネール!!」
ハガネールが吠え、尾を一気に振り下ろすが……。
「アリス!!」
まだ策を隠していたメグミが叫んだ直後、ハガネールにオーバーヒートが命中した。
「なっ……!?」
苦しむハガネールから視線を変えると、光る小さなもの……アリスを捉らえた。
(まさか……サイコキネシスでオーバーヒートの軌道を変えた……!?)
驚きの眼差しを向けるバショウが、悔しそうに奥の歯を噛む。
「サイコキネシスにそんな使い方があったとは……!!」
舌打ちと同時に彼のポケモンは、同時に砂の海に倒れ込んだ。
まだ起き上がろうとするハガネールとソプラだが、そんな彼らの意志を無視してボールに戻してしまったバショウに少女が歩み寄る。
「……バショウ」
名前を呼ばれて自分より背の低い彼女を見遣れば、怒ったような顔をしていた。
あんなに無様なバトルをしたのだから無理もない。
弁解をする考えもなく、ただこんなバトルに付き合わせてしまった事に謝罪と礼だけして帰ろうと口を開こうとした途端、メグミの表情が変わった。
眉を下げ、淡い紫色の瞳が憂いを帯びる。
「……どうしちゃったの?何だかバショウらしくなかったよ?」
「……私らしくない……?」
いつもは出さないような間延びした声で聞き返すと、彼女はこくりと頷いた。
「アキラやブソンが言ってたようなバトルじゃなかった気がする。2人が話してたバショウのバトルは、今のとは全然違うよ」
直接バトルをしたのは今が初めてなのに、メグミは確かにバショウの違和感を感じていた。
「……どの点が私らしくないと思ったんですか?」
「第一に、ポケモンへの指示が少ない」
間を取らずに少女はきっぱりと言い切る。
「あと、ブソンが自慢げに『バショウは俺の事も見てくれるから、安心してタッグが組める』って言ってたのに、今のバトルは完全にハガネールしか見てなかったでしょ?……取り敢えず、私が気になったのはこの2つかな」
「…………」
以前にも感じていたが、彼女の洞察力はなかなかだとバショウは思い返した。
「……やはりあのワタルの妹だけの事はありますね」
一度だけ俯き、夜の空を見上げて青年は呟く。
「ここで立ち話するのもなんですし……どこかで座りましょう」
バショウが話を持ちかけるなんて珍しい、と戸惑いながらも、メグミはポケモン達をボールに戻して彼の後について行った。