レストランの騒動から数日後、空は鮮やかなオレンジから深い群青色に変わろうとしている。
まもなく夕方から夜になる時刻で、アキラ達は野宿の為に薪拾いをしていた。
「よし、これだけあれば大丈夫だな。そっちはどうだ?」
「バッチリだよ。明日の朝まで焚火しても余りそうなぐらい集め…………っ!」
ふと気配を感じて辺りを見回す。
大きな何かが近づいて来る気配が迫る。
「……みんな、薪を置いて」
楽しそうにしていたメグミの目つきが真剣になり、クロスとアルダはある一点を睨んで唸り声を上げる。
怖くなったラルトスのアリスはメグミの胸の中で震えて顔を覆った。
次第に近くなる気配と共に地面が小刻みに揺れ動く。
「……っ!下だ!!」
アキラが叫んだ直後、2人が立っていた場所から巨大なポケモンが現れた。
咄嗟に回避するものの、あまりの大きさに圧倒されてしばらく動けない2人。
そして砂埃が治まってから、それが鉄蛇ポケモンのハガネールだと漸く分かった。
その頭には銀髪の男が乗っていて、胸にはロケット団を示すRの字がある。
「くっ……」
滲んだ汗が額から顎まで一直線に流れる。
メグミもアキラも彼が今までの下っぱなんかとはレベルが違うのを理解していた。
(今大技を使われたらまずいわね……)
「みんな戻って!!」
ポケモンをボールにしまうとキッとバショウを睨む。
「そんなに恐い顔をする事はないでしょう?何故我々があなたに会いに来たのかは承知のはずですが……」
「そりゃあ3年も会いに来られちゃね。嫌でも分かっちゃうわよ」
冗談まじりで言うが、頭の中はこの状況をどうやって回避するかが巡っていた。
2人がかりで戦うか、それとも……。
「……メグミ、奴は俺が引きつけるからその隙に行け」
「そんな……!出来ないよ!!」
「俺1人でも足止めくらいはできる。……それとも俺が負けるとでも思ってるのか?」
ギュッと鞭を握るアキラは安心して欲しいという意味を込めて微笑んで言った。
もし今自分が少しでも不安な顔をしてしまえば、きっと彼女は一緒に戦うと決めてしまうだろうから……。
そんな彼の後ろ姿を見つめてメグミは言った。
「……気をつけてね」
メグミが霧の深い鬱蒼と茂る森の中へと消えて行ったのを見送ると、アキラは敵である男を鋭く睨み据える。
「サンドじゃパワー負けするな……。行け、ケンタロス!!」
ボールから放たれた暴れ牛ポケモンのケンタロスは右前足で地面を蹴り、いつでも突進できる体勢をとる。
「ハガネールにノーマルタイプの技は効果がありませんよ」
「そんなの常識中の常識だろ!ケンタロス、火炎放射!!」
不意打ちで放たれる火炎放射だが、バショウは全く怯む様子なく冷静に指示を出す。
「ハガネール、砂嵐」
巨大な体が回転すると辺りに砂が一瞬で巻き上がり、ハガネールの周りに作られた砂の壁で炎はかき消されてしまった。
「残念でしたね。弱点を攻められても対抗する術はいくらでも用意していますよ」
「成る程な……。生半可な技じゃダメって訳か……」
「……なかなか面白いバトルになりそうですね……」
余裕からか、緩やかに口元を上げるバショウに対し、アキラは一筋縄ではいかない事を理解して小さく舌打ちをした。
「どうしたんです?まさか……もう終わりですか?」
「ンな訳ねえだろ!ケンタロス、突っ込め!!」
「どう出るかは分かりませんが……ハガネールの防御力を甘く見られては困りますね。ハガネール、迎え撃ちなさい」
突進するケンタロスとハガネール。
重量級の2体がぶつかり合った瞬間に、森の中に重圧な振動音が響いた。