頬に当たる、ふわりとした柔らかい感触。
耳からは微かに誰かの話し声が聞こえて来る。
どうやらその人物は電話をしているらしく、自分はベッドか何かに寝かされているようだ。
(ここは……?確か私……森の中でロケット団と戦って……)
まだ朦朧とする記憶を辿り、メグミは今の自分の現状を把握しようとした。
ロケット団の襲撃。
アキラとの離別。
金髪の男とのバトル。
そして―――……。
(私……捕まっちゃったの…!?)
最悪の事態に全てが押し潰されそうになる。
(そんな……)
旅立って間もない頃に交わした約束。
それを守りきれなかった現実に、ただ胸を痛ませるメグミ。
「……目が覚めましたか?」
顔を上げる先には銀髪の男、バショウが見下ろすように自分を見つめていた。
咄嗟に起き上がろうとするメグミだが、手錠をかけられていた為にそれは出来ずにまたベッドへ倒れてしまう。
「……私をどうするの?」
「どうもしませんよ。ただ人質を預かっていますので、逃げ出そうなんて思わない方が身の為ですよ」
「人質……?まさか……!?」
動揺するメグミの前に突き出されたのは彼女のモンスターボール付きのベルトだった。
「眠っている間に失敬しました。これは私が預かっておきます」
バショウは再び胸元にボールをしまった。
当然ながらメグミは怒った顔をして無理に起き上がる。
「ちょ……ちょっと待ってよ!!」
「何を言われても返すつもりは毛頭ありませんよ」
「そんなの百も承知よ!それよりも……!」
真剣な面持ちで問い詰めるメグミの口から出た言葉は、バショウの予想を大きく外れたものだった。
「アキラは無事なの!?あなたが戦った男の子よっ!」
「……え?」
これには流石のバショウも驚きを隠せなかったようだ。
いつもはキッとした瞳が大きく見開かれている。
「ねえ、答えてよ!」
必死に尋ねる彼女を見つめた後、バショウは一呼吸おいていつも通りの静かな口調で言った。
「……安心して下さい、彼は無事です」
「本当っ!?」
「ええ。……ついでながらに言わせてもらいますが、あなたのポケモンも治療しますので心配はいりません」
それだけ聞いたメグミは空気が抜けたように音をたててベッドに倒れ込んだ。
「良かった……」
それだけを呟いて。
「どうだバショウ。嬢ちゃんは起きたか?」
ノックなしに入って来たのは彼の相棒のブソンだった。
その後ろには白衣を着たナナミの姿がある。
「こんなに早く連れて来るとは流石だな」
「Drナナミ、彼女がメグミです。実戦で少々データは取れましたが……」
「そんなものはどうでもいい。それよりもファイヤーのタマゴは?」
メグミはナナミの言葉にギクッとした。
ボールはロケット団の手に落ちてるも同然。
このままタマゴから孵化したファイヤーは、ロケット団の私利私欲の為に破壊の類いに使われてしまうに違いない。
そう思い、諦めの感情から目をギュッと瞑る。
しかしバショウの口から出た言葉は、予想もしないものだった。
「残念ですが彼女はモンスターボールを1つも所持していませんでした。恐らく誰か他の人物に託したと思われます」
「何……だと……!?」
(……へっ!?)
バショウの有り得ない発言にメグミの顔が一気に崩れ、代わりにナナミの眉間に深いシワが寄る。
「ちょ、ちょっと!何を言っ……むぐっ!?」
「うるせぇぞ。ちょっと黙ってろ」
顔の半分程をブソンの大きな手が塞ぐが、口だけでなく鼻も押さえられ、メグミは当然苦しくなって暴れ出した。
「本当か!?」
「はい。しかし誰に渡したかまでは皆目見当も付きません。何せ彼女の友人知人は幅広くいますので……」
「くそっ……!小癪な真似をしてくれたな!!」
鬼の形相で睨み付けると、ナナミはドアをバタンと閉めて出て行った。