ワタルとの出会いでモチベーションを取り戻し、警察の聴取を終えたアキラは相棒のサンドを連れ、綺麗に澄み渡る空の下へ赴いた。
群青色の空にはちりばめられた星と、白銀の月がぽっかりと浮かんでいる。
アキラは長い時間緊張していたからか、ベンチに項垂れるように腰をかけると力なく言った。
「……なぁ、サンド。あのままバトルしてたとして……ロケット団に勝てたと思うか?」
珍しく主人の自信のない言葉にサンドは首を傾げる。
「今までたくさんのロケット団に勝ってきたけど……あそこまで攻撃を完封されちまうと……ショックだよな……」
多少なり自信が過剰になっていた。
自分は誰にも負けるはずがないと自惚れていたんだと、アキラは己を責め立てた。
敗北を思い知った途端、弱音をたくさん吐いた。
しばらくの間、小さな相棒に大きな不安や自分への悔恨を吐き出した。
……そうしているうちに、メグミがこんな事を言っていたのをふと思い出す。
『どんなに凄い力があっても、その力を過信するといずれ後悔するのは自分だから、過剰な自信は持っちゃダメなんだよ』
(……折角警告してくれてたのに……こんなんじゃあ、合わせる顔がないな……)
情けなさすぎて、つい空笑いする。
だが、彼女の言葉の続きを思い出すと、また虚空を仰いだ。
『……でもね、過剰な自信は悪い事に繋がるかもしれないけど、正しい心が作り出す自信なら……』
「……もっと強い自分にしてくれる……か……」
アキラは吹っ切れた面立ちでベンチから離れると、頬を叩いて気合いを入れ直すなり俄かに言った。
「よしっ!修行するか!!」
流れる雲に向かって吠えるアキラの後ろに、マント姿の彼の影が映る。
「随分気合いが入ってるようだね、アキラくん」
月明かりを浴びて現れたワタルは穏やかに言った。
「ワ、ワタルさん!?いつからそこにいたんですか!?」
これまでの独り言が全て聞かれていたのかと焦り、ひどく狼狽してしまうアキラ。
「ハハハッ、つい今さっきだよ。……それよりもどうだろう?修行なら俺が付き合うが……」
「い、いいんですか!?」
「勿論。俺もアキラくんのバトルを見たかったからね」
「……ワタルさんからそう言ってもらえて……感激です!!是非お願いします!!」
願ってもないチャンスにアキラは胸を躍らせて修行を申し込んだ。
――必ず強くなる。
その強い決意は表情として表れ、アキラはギュッと鞭を握りしめる。
それを見たワタルから笑みが零れた。
「いい顔つきだな……。それじゃあ俺のポケモンは……!」
投げたボールから放たれた光が形を成す。
そうして現れたのは海の化身とも言われている、ドラゴンポケモンのカイリューだ。
「このカイリューは俺の一番の相棒だ。大抵の技は会得している頼もしい奴だが……折角の修行だ。君の為になるようにしよう」
ワタルから目で合図を送られたカイリューは力強く翼を羽ばたかせる。
すると、みるみるうちに辺りは舞い上がった砂で覆われた。
「この砂嵐の壁を越えられないと攻略は出来ないよ。君の持てる力の全てをぶつけてくれ」
「俺の力を……全て……」
燃えて来たと言わんばかりに鞭を握る手に更に力が入る。
「さあ、始めようか!!」
「はい!!お願いします!!」
その修行は夜が更けるまで続いた。