アキラが騒がしさに目覚めると、部屋の外から何人もの足音が聞こえて来た。
気になったアキラはサンドと一緒にドアを開くと、廊下ではジュンサーを始めとする警官達が血相を変えて、無二無三にたくさんの機材を運んでいた。
「な、何だぁ!?」
「アキラくん!」
呼ばれて振り返れば、同じく焦った様子のマントの青年───ワタルがいた。
「すまない!急いで君も支度をしてくれ!」
「支度……?何のですか?」
状況を飲み込めないアキラは1人周章狼狽するが、ワタルの次の言葉を耳にした途端に表情を一変させる。
「メグミの居場所が分かりそうなんだ!」
「えぇっ!?」
「詳しい事は後で話す!その間に戦いに備えて準備をしておいてくれ!」
「は、はいっ!」
アキラは大慌てで部屋に戻ってリュックの中身を広げる。
まさかこんなにも早い展開になるとは夢更思っていなかっただけに、体も思考も思うように動かない。
「傷薬は持って行った方がいいか……。えーと、傷薬……!傷薬はどこにしまったっけ……!!」
ガチャガチャとうるさくリュックを漁るアキラを見兼ねたのか、サンドが彼の服の裾を引っ張った。
「な、何だよサンドっ?」
向けば『落ち着いて』と言わんばかりの小さな瞳で見つめられていた。
そこでやっとアキラは冷静さを取り戻し、申し訳なさそうに頭を掻く。
「……ごめん。また熱くなっちまった……」
謝罪を聞くとサンドは笑い、他の仲間達を起こしにかかった。
アキラも落ち着きながら荷物を整理した後、大事な鞭を携えてリュックを背負いワタルの下へと向かった。
その主人を追うように、ポケモン達も走り出して行く。
「だから……俺は何も知らねえ!」
外には見るからに怪しい男がロープでぐるぐる巻きにされていて、その男を中心に警官達が十重二十重に取り囲んで騒いでいた。
「嘘を吐くな!なら何故トラックの荷台に捕縛されたポケモンがいたんだ!」
警官達の詰問にも男は知らない、関係ないの一点張り。
アキラは身近にいた警官に声をかけ、この事態を尋ねてみた。
「検問に引っかかった奴がどうやらロケット団らしいんだよ。でも押し問答の繰り返しでね……。キリがないんだ」
「ロケット団っ……!」
アキラの脳中に彼女を連れ去ったバショウとブソンの顔が鮮明に思い出されて危機迫った顔でいると、ワタルに優しく肩を叩かれた。
「自分に任せてくれ」
そう言うと彼は警官の群を掻き分けて男の所へ進んで行った。
気になったアキラも背中を追い、彼が怪しき男の前に立つのを見守る事に。
「……手短に聞こう。あのポケモン達をどこに運ぶつもりだったんだ?」
「だから俺は何も知らねえよ!いい加減この縄をさっさと解け!」
「お前っ……!」
態度の大きな男にムッとしたアキラが一歩前に出るが、それをワタルに制された。
「いいんだ、アキラくん。……自分はロケット団ではない……。飽くまでもそう言い張るつもりなら構わない。だが……」
ワタルは男の前にモンスターボールを投げた。
出て来たのは凶悪ポケモンのギャラドスで、体は色違いの鮮やかな赤だった。
「ひぃっ……!」
威嚇に怯み、情けない声を漏らす男。
それに構わずワタルは続けた。
「このギャラドスは以前、ロケット団の実験で酷い仕打ちを受けたんだ。無理矢理に願わない進化をさせられ、さらに実験材料として使われそうになった。そしてその時ギャラドスは怒りで我を忘れ、そこにあったロケット団のアジトを火の海に変えたんだ」
アキラは固唾を飲み、額に浮かぶ汗を拭かずに事態を見守った。
「今でもロケット団への恨みは抱いたままだ。……この意味が分かるかな?」
優しくない笑みで告げられ、男は震えた呼吸を繰り返す。
「このギャラドスを前に……今と同じ台詞が言えるか?」
脅しとも取れるワタルの言葉。
男だけでなく、アキラと周りの警官達も恐怖から背筋が凍りつくような思いだった。