メグミがいる部屋を離れ、今いる団員達に指示を出し終えたイッサは足早に廊下を歩いていた。
「ったく……!ここの部隊は平和ボケでもしてるのか!?」
早足の原因は苛立ち。
イッサが警察の接近の報告を受けた時には、もう警察は研究所の目と鼻の先にいたからだ。
それに加えて、事態を知るなりオロオロしだす団員の行動を見、彼は怒りを通り越して呆れた。
この部隊には戦闘慣れしている団員がいないらしく、イッサが指示を出さなければただ怯えるしか出来なかったのだ。
「こりゃあ……アイツらにこのまま先に前衛に出てもらうか……」
自分はメグミに付いていなければならない為、今この研究所にいる中で戦闘向きなのは特務工作部のバショウとブソンしかいない。
イッサは胸ポケットから無線を取り出して2人を呼び出した。
『ピピピピッ』
ブソンの胸のホルスターに付けていた無線が鳴る。
「俺だ。どうした?」
無線の向こうの相手が分かっていたので、手短に自分だと分かりやすく返事をするブソン。
「今警察がこっちに向かって来てる。先に出てくれ」
「了解。……っと、そうだ。そっちにナナミが行ってねぇか?」
「いや……今部屋を離れてたから分からない。ナナミがどうかしたのか?」
バショウはブソンの手から無線機を拝借する。
「ナナミの姿が見当たらないんです。部下にも聞いたのですが、誰も所在を知らないようでして……」
「こんな時に何やってんだよ……。分かった。ナナミは俺が捜しておくから、お前らは前線を頼む」
了承の返事を聞いたイッサが無線を切る。
自分の部隊が危機に晒されているというのに、ナナミは一体どこで何をしているのだろうか。
そんな事を思慮しながらメグミのいる部屋に到着しかけた時、イッサは違和感に気づいた。
(なんでドアが開いてるんだ……?)
僅かに開かれたドアを見て、自分が鍵をかけ忘れた事を思い出す。
だがポリゴン2も一緒にいたので、メグミが逃げ出したという推測には至らなかった。
部屋が暗すぎて不安だったのだろうと、あまり気にかける事なくイッサはドアを開いた。
―――しかし……。
「っ……!?ポリゴン2!?どうした!?」
真っ先に彼の目に飛び込んで来たのは、蔓に絞めつけられて苦しそうにもがくポリゴン2だった。
「宿り木の種か……!戻れ!」
ボールに戻せば宿り木の効果がなくなる事を知っていたイッサが、体力が尽きかけていたポリゴン2をボールに戻した時、異変に漸く気づいた。
───メグミがいない。
しかし、彼女がポリゴン2を苦しめてまで逃げる性格ではないのは分かっていた。
(まさか……)
ある仮説が脳裏を過ぎった瞬間、逆上せていた血の気が一気に引いた。
所在不明になっている研究所の責任者。
開いていたドア。
瀕死の状態にされていたポリゴン2。
そして消えたメグミ……。
全ての点が線で繋がった時、自分の考えの甘さと彼女を1人残した失態に怒り、イッサは壁を強く殴る。
「くそっ……!!あの野郎……!!」
ナナミが彼女を拐った事を理解すると、乱暴に椅子に座ってパソコンを立ち上げる。
ハッキングは済んでいるので、すぐさま監視モニターやロックシステムを開く。
だがまた新たなロックがかけられていて、画面にはエラーの文字が皮肉るように表示される。
「ふざけやがって……!!」
(どうする……!?先にシステムをハックするか……奴らを捜しに行くか……!?)
二者択一に悩む。
こう考えている間にもメグミの安否が気遣われるし、今のうちにハッキングをし終えていないと、後々に困る。
考えに考え抜いた末、イッサはボールを投げていかずちポケモンのサンダースを出す。
「10分だけで構わない。その時間でナナミがどこに行ったか調べて連絡を入れろ。いいな?」
サンダースの首に紐付きの簡易信号をかけて出発させるイッサが、険しい顔つきでパソコンに向き合う。
「さて……俺もこのフザけたロックを解除しなきゃな……!」
キーボードの上を10本の指が目まぐるしく動き出した。