「……嬢ちゃん、アイツがいる時は俺達の話に合わせろ。いいな?」
突然ブソンが手を緩めたついでに耳打ちをして来た。
しかし意図が分からず、了承できない為かメグミの顔には『嫌だ』と書いてあるが……。
「人質がどうなってもいいのか?」
「……っ!アンタって本当に最低~っ……!」
脅しかけるブソンの言葉に涙を溜めた瞳で睨むが、彼には全く効果はない。
そのやりとりの中、漸く手錠がメグミの手首から外された。
「最高の褒め言葉だな、ありがたく受け取ってやるよ。……それとコイツに着替えとけ。そんな格好でいられても困るからな」
そう言って投げ付けられたのは、飾り気の全くない白いワンピース。
「性格だけじゃなくてセンスも最低ね……。って言うか、何で私がこんな服を着なきゃいけないのよ……」
「嫌ならいいぜ。ただ、その服のままなら後でチェックされるぞ。男にな」
「う゛……」
想像するなり寒気が背筋を走り、思わず胸の前で手を交差して自分の肩を掴んだ。
「10分程部屋を空けますので、その間に着替えを済ませておいて下さい。……他に何か言い足りない事はありますか?」
「……もうないわよ……」
これからの自分が不安でならないメグミは溜息を吐いて思う。
(アキラがいてくれたらなぁ……)
そのアキラは警察の事情聴取を受けている最中だった。
しかし向かいの席に座るジュンサーは、困った様に引き攣った笑いを浮かべている。
「……アキラくん、ショックなのはよーく分かるわ。分かるけど……質問に全部溜息で答えられるのは、ちょっと困るなぁ……」
「はあ……」
意気消沈というか、自信喪失というか……。
いつもの彼なら誰が何と言おうと無謀に行動を起こしているが、今のアキラには生気というものが全くなかった。
気のせいか、彼の周りの空気が紫色にも見える。
「じゃあ少し休憩取ろうか?そうしたら気持ちも落ち着くだろうし……ねっ?」
「はあ……」
最後の最後まで溜息しか出ないアキラであった。
ガコンと音をたてて自動販売機からサイコソーダが出て来る。
それを手にしておもむろに額に当てれば、ひんやりとした感覚が少しだけ心地良かった。
「メグミ……」
呟く名前の少女は今はいない。
最後に交わした言葉も、彼女の笑顔も、記憶の中で霞んでいくだけだ。
(俺にもっと力があったなら……!)
罪悪感に駆られ、壁に頭を打ちつけるアキラ。
そんな彼に近づく1つの影があった。
コツコツとブーツの音をたててアキラの傍まで行くと、落ち着いた口調で言った。
「……君がアキラくんだね?」
また警察官だと思い、アキラは俯いたまま一方的に会話を拒否した。
「そうだけど……事情聴取なら後にしてくれよ。今そんな気分じゃないんだ」
自分への苛立ちが言葉になって相手へ向けられる。
しかし彼はそんな事を言われても嫌な様子を見せる事もなく、落ち着いた口調のまま続けた。
「事件の話も聞きたいが……その前に君にはお礼を言いたいんだ。何せ、ずっとうちのメグミを守っていてくれたんだからね」
「……は?アンタ何を言っ……て……え!?」
やっと会話の相手に顔を向けた瞬間、アキラは驚きのあまり目を大きく見開いた上に絶句した。