「―――……そうか。シャドー達はレオくんを狙って……」
「私達は完全に人違いで襲われたんですけどね」
出された紅茶を口にしながら、コロシアムでの説明をする一行。
するとセイギは顔を険しくして呟いた。
「またシャドーが動き出したのか……」
また、と口にする辺り、彼もこれまでの事件を知っているらしい。
それとなくバショウが尋ねてみると、セイギは肯定の返事をした。
「実はこのフェナスシティは過去に2回、シャドーに占拠されたんだ」
「占拠って……」
「最初はフェナスの市長がシャドーの総帥だったんだ。勿論、表の顔は穏やかな市長としてね。奴がレオくんの活躍で逮捕された後は至って平穏だったよ。……リブラ号の事件があるまではね」
「リブラ号?」
セイギはラックから新聞の切り抜きを集めたファイルを取り出し、アキラ達に見せた。
「オーレ地方には野生ポケモンはほとんど生息していないから、ここのトレーナーは他の地方から運ばれるポケモンを引き取って育てていたんだ。そしてこのリブラ号がポケモンの運搬をしてたんだけど……」
「シャドーに襲われたってか」
茶化すブソンの口ぶりにもセイギは困ったように笑うだけ。
「その通り。しかもその後だよ。フェナスが乗っ取られたのは」
「乗っ取られたって……一体どうやって……」
「入れ替えだよ。住民のね」
広い街の住民とシャドーの者が入れ替わる。
簡単に言うが、実際はそうたやすくいかないのは明確。
セイギが説明するには、住民を地下に閉じ込めた後にその人物になりすます。
更に外部の者を寄せつけない。
その手口を繰り返して住民は勿論の事、セイギにまでなりすました輩もいたそうだ。
「僕になりすまそうとしたシャドーの奴らは変だったな。一度に6人も僕がいたら、誰だって不審に思うのに」
思い出して苦笑いするセイギが何ともなしに口にした『6人』の単語に、アキラが強く反応する。
「もしかしてその6人って、全員色違いの戦闘服を着た奴らですか?」
「あ……ああ。よく知ってるね」
「やっぱり……」
アゲトビレッジに向かう途中、突然出現した謎の集団。
全員がダークポケモンを所持し、内の2体をレオとリュウトがスナッチしたのだが……。
「やっぱりおマヌケね、あの6人」
「自爆で味方ごと吹き飛ぶし、確かに賢くはなかったな」
名前も忘れた6兄弟を思い出しただけで頭が痛くなった。
願わくばもう再会したくないと思うが、ここしばらくシャドーと関わらない日がないので無理だろう。
そう考えた4人は同時にがっくりと息を吐いた。
「君達もシャドーに関わりが?」
「俺達は……関わられてます、はい」
「超迷惑してます」
きっぱり言い切るメグミにアキラは苦笑いするも、同意するしかない。
「……そうだ。良かったら、ポケモン総合研究所に行ってみたらどうかな?シャドーの事について知ってる人がいるから、話を聞いてみるといいかもよ」
「ポケモン総合研究所って……」
その施設は、以前イッサがリライブについて調べている場所だと語っていた所。
シャドーの事に加え、リライブについても知る事が出来るなら、次の目的地に最適だろう。
「セイギさん、ありがとうございます!丁度目当ての場所がなくて困ってたんです」
「それは良かった。こんな僕でも役に立てて嬉しいよ」
セイギが微笑んだ時、部屋の扉が2回程ノックされて女性の声が彼を呼んだ。
「セイギさん、お電話です」
「分かった、今行くよ。失礼、すぐ戻るよ」
丁寧な配慮の後に退室するセイギ。
残された4人は同時に紅茶を飲み干して結論を出した。
「次はポケモン総合研究所だね」
「ああ」
場所はオーレ地方の北西。
地図で見ると研究所はアゲトを越えた先にあるので、行ったり来たりするような道のりになるらしい。
「移動手段がバイクだけっていうのがなぁ~」
「飛行機でもあれば…………あっ。飛行機ならダツラさんが乗ってたっけ……」
だが飛行機は故障していた。
修理も一朝一夕では終わらないだろう。
「何にしても、諦めて嬢ちゃん達は俺とバショウの後ろに乗る事だな」
移動は彼らの運転するバイクのみだと改めて結論づけられた2人は間延びした返事をするばかりだった。
そうしている内に、用を済ませたセイギが部屋に戻って来る。
「お待たせ。君達に伝言だよ」
「伝言?」
「“今度は正式にコロシアムに招待したいから、パイラタウンへ来てくれ”……。隣町のヘッジさんが、是非と言っていたよ」
シャドーが仕組んだ偽りのバトルでなく、正真正銘のコロシアムに招待をしたい。
そうヘッジと言う人物から言伝を預かったセイギが言うと、彼は飲みさしの紅茶に口を付けた。
「パイラタウンにもコロシアムがあってね。まあ……正直言うと、治安はいいと言えないけど、君達なら大丈夫だろう」
「ポケモンバトルが強いから……ですか?」
「それもあるけど、立派なボディーガードがいるじゃないか」
爽やかに笑うセイギが見つめる先の“ボディーガード”は、紅茶ぐらいでは物足りないと不服そうだ。
目が合うと「何だ?」と案の定睨まれるが、その彼……ブソンがボディーガードだと表現された事に思わずメグミは吹き出した。
「確かにそうですね。安心してパイラタウンに行けそうです。ねっ?ブソン」
「はァ?」
興味がないのか、話を聞かなったブソンは間延びした声を出す。
「ヘッジさんには僕からもよろしく伝えておくよ。……さて、そろそろトレトレの講習の時間だ」
セイギが壁にかかった時計を見て席を立った。
机の隅に丁寧に積まれた資料を手にする様子に、アキラが尋ねる。
「トレトレって何ですか?」
「トレーナートレーニングセンターの略称だよ。ポケモンバトルの基礎を講習しているんだ」
「セイギさんは先生なんですね」
「そういう事になるね。色々話を聞かせてくれてありがとう。道中気を付けて」
「こちらこそ!ありがとうございました!」
丁寧に食器をまとめるメグミが代表してセイギに礼を言い、4人はトレトレを後にした。
「パイラタウンか、ポケモン総合研究所か……。行き先が増えたな」
フェナスシティからパイラに向かうなら、ほぼ西に向かって真っ直ぐ。
総合研究所なら、向かう方角は北西にやや変わって来る。
「別に研究所は急ぎじゃねぇんだろ?ならパイラタウンからで問題ないだろ」
ブソンはバイクのエンジンを蒸かしながら呟き、早く出発したいという意思を表す。
「じゃあ次の目的地はパイラタウンね!その後にポケモン総合研究所に行こう!」
水の街を背に、一行は西の町パイラを目指してバイクを走らせた。
その道中、メグミが
「バトル出来なくて残念だったね」
とブソンに言う。
「……別に、バトルぐらいいつでも出来るからな。それに、俺は嬢ちゃんと違って純粋なトレーナーって訳じゃねぇし」
飽くまでも自分はトレーナーの前にロケット団だと言い放つブソンの腰に回された腕に力が込められる。
「何言ってるの!ポケモンを持ってれば、みんなポケモントレーナーでしょ!」
「あのなぁ……。だから俺は嬢ちゃんと違って、別にポケモンを育てたりするのが好きじゃねぇんだよ」
「その割には、ブソンのエアームドの育てはいいみたいだけど?」
「そりゃどうも」
皮肉は有り難く受け止められ、そこで会話は終了する。
(アゲトからの距離と比べたら、パイラタウンにはすぐ着けるな)
ブソンはそんな事を1人考えながらバイクのハンドルを握っていた。
―――ところが。
(……やっちまった)
隣の少女は体育座りをしながらこちらを睨む。
つい目を逸らすが、薄暗い場所がますますブソンに気まずい圧をかけてくる。
その場所にはバショウとアキラの姿はない。
どうして2人だけなのか。
そして何故彼らは洞窟にいるのか。
それを語るには、今から少し時間を戻さなければならない。
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