「……ヒュ〜、なかなかの電撃だな」
申し分ないと腕を組んで頷くブソンの顔は満足そうだった。
そこに突然メグミが抱き着いてきて、彼は反動でその場でくるりと一回転する。
「すごいすごい!ブソン、超すごい!」
「は?」
「テノールの渦潮を完成させちゃうんだもん!私ビックリしちゃった!」
抱える少女の発言に一瞬停止し、目線を上から下に流した後にブソンが言った。
「……って待て!!不完全な技を『使える』って言ったのか!?」
「私は『確か覚えてる』としか言ってないよ」
記憶を思い返せば確かにその通りで、彼女は『使える』と断言しなかったし、結局はシャドーを撃退出来たし、いわゆる『結果オーライ』というヤツである。
ブソンは頭をがしがしと掻いて光が差す穴を見上げた。
「まあいいか……。……エアームドであの穴から出られそうだな」
ダークホールドの効果がなくなったテノールとエレブーを戻し、代わりに出した鎧鳥ポケモンが光を受けて鈍色に舞う。
「まずは俺が外の様子を見て来るから、その間にポケモンを仕舞っておけよ」
「うん」
ブソンはエアームドの脚に捕まって先に穴の外を調べる。
敵の気配もなく、離れた場所に自分達が置いたバイクが見えたので、すぐにエアームドを穴の中に戻す。
メグミもブソンと同じように鎧鳥に捕まって穴から脱出するなり、久しぶりの太陽の光を惜しむ事なく全身に浴びた。
「う〜、すっごく眩しい~」
「あれだけ暗い場所にいたからな」
自分はサングラスを付けていたから日差しも平気らしく、ブソンは足場を確認して岩から岩へ飛び移る。
ところがメグミの怪我を忘れてた事に気づくと、またさっきいた岩に戻った。
「さっさと行くぞ」
有無を言わさぬ口調のブソンは、今度は彼女を横抱きの形で担ぐと、軽やかに岩をひょいひょいと飛び移る。
「ブ、ブソン!自分で歩けるよっ!そ、それに速いってばぁ!」
「バショウ達を待たせてんだ。ゆっくりしてらんねぇよ。怖ェんならしっかり捕まってな」
そう言った矢先、メグミが強くしがみ付いて来たが構わずブソンはバイクを目指してさっさと進む。
「よっと……!ほら、着いたぞ」
言われて漸く顔を上げるメグミは、まるで水中から上がった後のように深く呼吸をした。
「こ、怖くて思わず息止めてた……!!」
「何してんだよ……」
「だってあんな高い所をぴょんぴょん飛ぶんだもん!!超怖いに決まってるじゃない!!」
「あれぐらい、ロケット団の訓練じゃあ普通だぜ?」
「私はロケット団じゃないもんっ!」
正論を述べるメグミだったが、目前の彼の瞳が何かを訴えている。
その訴えが『早く降りろ』だというのに気づきスイッチを切ったように静かに口を閉ざせば、ブソンは満足そうに笑った。
「いい子だ。……よし、早くパイラタウンに行くとするか」
「うん」
メグミを降ろしてチェックしたエンジンにも異常はなく、すぐに出発が出来そうだ。
バイクに跨がりエンジンを吹かして具合を調べると、背中から腕が回された。
「ブソン、ありがとね」
「今度は何の礼だ?」
「さっき言ったじゃない。『お礼は無事に出られてからにしろ』って」
おぶってやった時に自分がそう言ったのをやっと思い出した。
「今日だけで何回感謝されたかな」
「何回言っても足りないぐらいだよ」
「だったら礼は飯でしてくれよ」
言葉じゃ腹は膨れないと言えば、彼女は鈴を転がしたように笑う。
「それなら飛び切りのご馳走作ってあげるね」
「ああ。楽しみにしてるぜ、メグミ」
エンジンが高らかに響き、いざ出発するという時に後ろの少女が言った。
「ねえ、新しい仲間が出来た感想は?」
「エレブーの事か?……まあ、電気タイプがいれば、今後便利になるとは思うけどな」
「……それだけ?」
「ああ」
「もっと喜べばいいのに……」
「ライコウみてぇな珍しいポケモンなら、両手で万歳して喜ぶけどな」
そんなロケット団らしい事を言ってみせるブソンが運転するバイクが、砂漠に美しい筋を残しながらパイラタウンを目指す。
ちょっとしたハプニングを乗り越えた2人の表情は、どことなく喜悦の色を浮かべていたが、互いのそれを見る事はなく、バイクは風を切りながら進んで行った。
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