新たにエレブーをゲットしたブソンは、メグミと共にパイラタウンに到着しようとしていた。
「パイラタウンってどんな町なんだろうな」
「P★DAのマップには『ゴロツキの町』ってあるけど……」
「オイオイ、大丈夫かよ」
「ブソンがいるから平気だよ」
「……どういう意味だ?」
自分もゴロツキ扱いかと嫌みを込めて尋ねるが
「ブソンが一緒にいてくれるから、何かあっても平気でしょ?」
と返された。
答えになってないが、それに皮肉は含まれていない。
「…………」
「ブソン?」
返事の代わりにアクセル全開にし「舌噛むぞ」と短く言うブソン。
「舌って何……っきゃあっ!?」
メグミの体……もといバイクが浮いた。
運転するブソンにしがみ付いていなければ、舌を噛むどころか振り落とされていただろう。
「隆起がすげぇな。しばらくこの調子だから、気を付けろよ」
「気を付けようがないってばぁーーーっ!!」
岩場のポケスポットでのスライダーといい、今日の彼女は絶叫してばかりである。
一方のブソンは真後ろの悲鳴に慣れてしまったのか、一切反応してやらずに運転に集中し、漸く見えて来た町並みに久しく口を開く。
「あれか?パイラタウンってのは。……って、生きてるか?」
一度バイクを停め、急に静かな後ろの少女に変な問いかけると……。
「っ……超面白かったっ!あと3回はやってもいいかも!」
溜めた後の嬉々とした返答に思わずコケそうになった。
適応力があるというか、何というか……。
ハンドルに重心をかけて「そりゃー良かった」と棒読みで呟き、控えめにしたスピードでパイラタウンへと直行する。
段々見えて来る景色は、煙で汚れた建物や傾いた看板達。
まさに『ゴロツキの町』という名が相応しい。
「アキラ達は先に来てるみたいね」
停めてあるバイクを見たメグミが言うと、ブソンは
「どうせポケモンセンターにでも行ってるんだろ」
と素っ気なく返した。
手頃な所にバイクを停め、彼女を連れて早速ゴロツキの町に踏み込むと……。
「おっと。そこのお2人さん、待ちな」
アキラより明るい緑髪に映える橙色のゴーグル男が突然呼び止めて来た。
「このパイラの門番、マサ様の前を黙って通る気か?」
この流れはポケモンバトルに発展しそうだとブソンも察し、半分呆れたように腰に手を当てて答える。
「黙って通るつもりじゃなかったけど……“挨拶”が必要だってンなら、勿論させてもらうぜ?」
モンスターボールに手をかけ、いつでもバトルになってもいいようにすると……。
「……あ~。やっぱビビらねぇか~」
溜め息するように言うマサは、急にガックリと肩を落とした。
「昔は“パイラタウンの門番マサ”って言えば、ビビる奴もいたってのにな~」
きょとんとするメグミを置き去りに、マサは独り言を続ける。
「なのに最近はビビらせるどころか、余所の地方の奴にノされるなんて……」
「えっと……もしもーし。用がないなら通っていいですかー?」
既にブソンは無視を決め込もうとしていたが、メグミの声でマサは元の世界に帰って来る。
「ま、待てっ!お前らもポケモントレーナーだろっ!?俺とバトルしろ!!」
返事を待つ前に、マサはボールを投げてオオタチを繰り出した。
「本当ならダブルバトルをしてやりたいところだが……お前達、オーレの出身じゃないだろ?慣れてないだろうから、お前らに合わせてやるよ」
腕を組んで踏ん反り返るマサにメグミが
「ダブルバトルなら、ここ最近ずっとやってるし……こっちは2人だから問題ないけど」
と答えるが
「2対1ってオイッ!!」
と間髪入れずに彼からツッコミが入れられる。
しかしこちらはどちらがバトルをするかと話してる暇も惜しい。
そこで動いたのはブソンだった。
「下がってな。すぐ終わらせる」
肩を引いて下がらせると、エレブーを繰り出して電撃を指示させる。
目の前に降る閃光に目を伏せ、静かになった頃に顔を上げれば、やっぱりと思わせる光景があった。
「うわあぁっ!!オオタチーッ!!」
頭を押さえて膝を崩すマサと、ピリピリと麻痺しながら目を回す彼のポケモン。
「これで文句はねぇな。こっちは急いでんだ」
邪魔をするなと言い放つブソンをマサが睨む。
メグミはドキリと危険な流れを直感した。
(ここは私もポケモンを出しておいた方が……)
咄嗟にレーベのボールを掴むが、今回の直感は的外れだった。
「アンタッ……イカすぜっ!!」
「……は?」
サングラスの下の目が途端に据わる。
「容赦ない一撃に俺は痺れたぜっ!!アンタこそ男だ!!」
痺れたのは電撃だったからだろ。
……と言いたかったブソンだが、マサから向けられる煌々とした眼差しに引き攣って何も言えず。
そんなブソンを初めて見るメグミも呆然とするものの、はたと我に還って連れの腕を引いた。
「ブソン!早く行こっ!」
引いた腕に鳥肌が立っていたのは見て見ぬ振りで町の中へと飛び込む。
「早くポケモンセンターに行かなきゃ!2人が待ってるよ!」
小柄な少女が大柄な男を引っ張るという珍妙な光景を見つめるマサは、彼女の言葉に目を点にする。
「ポケモンセンターって……」
呼び止めようとするけれど、2人はあっという間に去ってしまった。
「あ……!オ、オイッ」
マサの周りに淋しく乾いた風が流れる。