残酷な言の葉が並べられ、そして突きつけられたメグミはワンピースのスカートをギュッと握りしめて唇を噛む。
溢れ出す感情を抑えようと必死だった。
「……もし……みんなの言うように、ポケモン全てが道具でしかないって言うなら……1つ聞かせて……」
意を決したようにメグミは次の言葉を紡んだ。
「あなた達のポケモン……ハガネールやエアームド達も、やっぱり道具でしかないの……?」
メグミの泣き出しそうな表情と言葉に胸がチクッと痛み、その内側を激しく掻き乱されたような衝撃に襲われた。
戸惑いや何とも例えにくい感覚に言葉を出せずただ俯き、誰も口を開こうとはしなかった。
そんな空気を察する事もなく、4人のいる部屋のドアが叩かれた。
「……どうぞ」
バショウが応えると、1人の隊員が一礼して部屋に一歩入って来た。
「失礼します。イチさん、例の件でお話が……」
「……!ああ、分かった。隣で話を聞く」
イチさんと呼ばれたイッサは隊員と共に部屋を出て行った。
そして取り残された3人の内、メグミだけは不思議そうに首を傾げる。
「……イチさん?」
「ああ、イッサのあだ名みてぇなもんだ。“イッサさん”だと呼びにくいだろうからって、自分の部隊の奴にはああ呼ばせてるんだよ」
「じゃあ今の人もイッサと同じ部隊の人なんだね」
何かに興味を持ったのか、メグミはドアに釘付けになっていた。
「……部屋の外でも見に行くか?」
「えっ?いいのっ?」
途端にぱぁっと表情が明るくなるが、ブソンが即座に一言添える。
「俺が見張りで同行するけどな」
「……えー、ブソンの見張りかぁ……」
不満そうに口を尖らせるが、いつまでもこんな薄暗く気が滅入るような部屋にいたくもなかった。
多少の不満を残しつつも了承し、彼と一緒に部屋を後にした。
「バショウ、今のうちに少し仮眠でも取っておけよ」
「……ええ、そうさせてもらいます」
バタンとドアが閉められるのを見送り、バショウはベッドに横になった。
そして溜息のようにぽつりと呟く。
「ポケモンは道具以外の存在……か……」
ポケモンセンターの一室で頭を抱える少年がいた。
少年……アキラはごろんと寝返りを打ち、傍らに眠る自分のポケモン達を横目に見た。
残念な結果だが今日の修行でワタルのポケモン、カイリューの砂嵐を突破する事は出来なかったのだ。
夜も遅い事もあり、一先ず今日はここまでにして、また明日トレーニングをしようとワタルに告げられた。
その別れ際にアドバイスのように言われた一言をふと思い出す。
『あとは特性を上手く利用する事だね』
「特性を利用……か……」
目を閉じて黙想に耽る。
言われた事は単純な事だがなかなか難しい。
まるで底のない沼にでも足を入れたような感覚だ。
何となく、虚ろな目で空っぽの隣のベッドを見つめれば、ただ切なさだけが増えた。
いつもなら、自分の隣で穏やかな表情で眠りに就いているはずのメグミがいない。
当たり前だった昨日までの日々が遠い出来事のように感じられた。
―――淋しい……。
孤独感がふわりと覆って来たその時だった。
視界が黒になっていきなり頬を舐められた。
驚いて跳び起きればそこにいたのは……。
「バ、バァン!?起きてたのか!?」
バァンと呼ばれたヘルガーはどことなくつらそうな瞳で主人のアキラを見つめ、彼を慰めるように擦り寄った。
「……お前もメグミが心配か?……当たり前だよな。お前の元でも主人だもんな……」
頭を撫でてやればまた甘えるようにじゃれついてくるバァン。
このバァンはデルビルの時にメグミから『信頼の証』として受け取ったポケモンだ。
今でもはっきりと覚えている、あの時の場面……。
それを思い出し、アキラはバァンの頭をポンッと叩いた。
「よしっ、次にロケット団と戦う時はお前で行くぜ」
頼んだぞ、と付け足せばバァンも勿論と言わんばかりに尾を振った。
「じゃあ明日は朝一で特訓だ。充分に休んどけよ」
バァンが寝床に入るまでを見届け、自分も毛布の中に潜って未だに訪れそうにない夜明けを待ちながら、窓の外を眺める。
明日になればまた強くなれる。
明日になればメグミを助けに行ける。
そんな想いを胸に抱きながら―――……。
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