この一件で男はあっさり自分がロケット団である事、ポケモンを乱獲をした後にある部隊の基地への輸送途中であった事を自白した。
そして、その基地にメグミが囚われている事も……。
先程よりも周りは警官達で一層騒がしくなり、アキラも落ち着かない様子でテーブルの上を引っ切りなしに指で叩く。
焦りが苛立ちへと変化し、自らを陥れていたのだ。
「……アキラくん、大丈夫だよ。メグミは君が助けに来る事も分かってる。それに……今の君の姿を見たらメグミも不安になってしまうよ?」
先刻の威圧感はどこへやら……、ワタルは元の優しい笑顔で言った。
「あの……ワタルさん。さっきのギャラドスの話……本当ですか?」
「……ああ、本当だよ。進化促進電波という実験の犠牲になってね……。けど……俺もついあんな事をしてしまったよ。昔からメグミに注意されてたのにな」
メグミの名を耳にし、アキラはハッとした。
「……あ、あの……こんな事を聞くのも何ですけど……ワタルさんとメグミって、その……親しい仲なんですか?」
初めて彼に会った時の『うちのメグミ』という表現から、何となくでだが答えは分かっていた事。
それを確かな形にする為に、不安なままの口調で尋ねると、ワタルも組んでいた足を変えて静かに口を開いた。
「そう……だね。俺にとってもメグミは特別な子だ。メグミも俺の事を特別に思ってくれているよ」
「特別……」
相思相愛を匂わせる返事に、何とも例え難い複雑な想いになった。
「……もしかしてアキラくん、メグミから何も聞いていないのかい?」
「メグミから……?いえ、ただワタルさんのファンみたいな事しか聞いてないです」
前にワタルのグッズを見せびらかされながら、と言えば彼は明後日の方向を見て少し考え込み、困った表情を浮かべた。
「メグミが伝えてないなら……俺から言わない方がいいな」
「……それって……?」
「ワタルさん!出発の準備が整いました!」
アキラの言いかけた言葉は大慌てで部屋に入って来た警官に遮られてしまったが、アキラは思考を切り替えてメグミ救出の事だけを考えるようにする。
鞭が軋む音を立てるまできつく握りしめるその表情は、以前の敗北を感じさせない凛々しいものになっていた。
「アキラくんは俺と一緒に行こう。戦いになったら援護を頼むよ」
「はい!……でも、ワタルさんなら援護はいらないんじゃあ……」
「いや、そんな事はないよ。きっと君の力が必要になる時が来る。絶対にね」
確信を持った瞳で言うワタル。
アキラも彼が言うのなら間違いないと自身を信じ、強く頷いた。
「期待しているよ。……さて、そろそろ出発しようか」
ワタルがボールを2つ放ると白い光がほとばしりポケモンが現れる。
1体は彼の相棒のカイリュー。
もう1体はカイリュー程の大きさではないが、迫力のある火炎ポケモン。
通常なら炎のようなオレンジ色の体だが、ギャラドス同様に色違いの黒いボディのリザードンだった。
尻尾で盛んに燃え上がる炎の赤と黒のコントラストは、ワタルをイメージさせる。
「アキラくんはリザードンに乗ってくれ」
「い、いいんですか!?うわ~っ!すっげー……!」
嬉々としてリザードンを見上げて、その凛々しい顔立ちについ喜悦の声を挙げる。
その間にひらりと軽い身のこなしでカイリューに飛び乗るワタル。
アキラも真似てはみるものの、やはり危なっかしい動きになる。
「最初のうちは慣れないだろうけど、次第に慣れて来るよ。……さあ行くぞカイリュー、リザードン!」
咆哮を上げるリザードン達が勢いよく飛び立つと、あっという間にポケモンセンターは小さくなった。
「飛ばして行くから、しっかり捕まってくれよ」
これ以上速さが増すのかと驚いてリザードンの首に強くしがみつくと、同時にスピードは急激に上がった。
流れていく鮮やかな景色には目もくれず、アキラは一点だけを見据える。
まだ実際には見えないが、その先にあるであろう、ロケット団の基地と囚われのメグミの姿をじっと……。
より一層握った拳に力を込めたその瞬間だった。
「……っ!アキラくん!下を見てくれ!」
ワタルの焦った声。
ハッとして見下ろすと、先発したはずの警官隊達が倒れていた。
「な、何だ……!?」
「降りよう!」
カイリューとリザードンは旋回すると警官達の元へと降り立った。