「……それで……これからどうしますか?」
「どうするも何も……さっさと任務を済ませるしかないだろう。ボスからも急ぐように言われてるし……」
「最終段階……って訳だな。よし、やるとするか!」
バショウ、イッサ、ブソンの順に言う。
いつもの余裕の笑みでブソンはウォーミングアップのように肩を回す。
だがイッサだけは不安を残した表情だった。
「どうかしましたか?」
「……気になる事があってな。さっき部下から聞いたんだが、ナナミの実験に使われるポケモン達が、未だに運ばれて来ないらしい」
「まさか……サツに捕まったってか?」
有り得なくもない推論を述べるブソン。
しかしそうなると、この場所が明かされて地下研究所にまで警察が踏み込むのも時間の問題だ。
「念の為、私とブソンで偵察に向かいます。イッサは彼女に付いていて下さい」
「ああ。でも下手に先走ったりするなよ、特にブソン」
「分かってるって。お前こそ、嬢ちゃんの事は任せたぜ」
深い言葉は交わさずに2人を見送り、念を押したイッサは再び部屋へと戻るべく、廊下を単身で進む。
まだ彼女は泣いているのか、それともポリゴン2との触れ合いで持ち直したかがやや不安ではあったが、どのみち自分が部屋に戻らないと分からないので、イッサは静かにドアを開いた。
暗がりの部屋に1本の光の筋が入る。
それは太くなった後、すぐに細く変わり消えた。
「……おかえり」
「ああ。もう落ち着いたみたいだな」
「うん。ポリゴン2がいてくれたからね。どうもありがとう」
それは良かったと軽く返すイッサに自然に笑顔を向けるメグミは、静かな口調のままに言葉を続ける。
「……イッサ、お願いがあるの」
メグミが壁に寄りかかった彼に言えば、僅かに目を見開いて直視された。
イッサもイッサで、まだポリゴン2を預かっていたいのかと、そう思っていたのだが……。
「2人に渡して欲しい物があるの」
さらりと言うが、何ともおかしい発言だ。
道具は全て没収されたというのに。
「これを……」
メグミが言いかけたその時だった。
「た、大変です!」
血相を変えた団員が部屋に飛び込んで来た。
「今……この研究所に向かってたくさんの警察が……!」
(まさか……アキラ……?)
もしやと思うメグミ。
一緒にある人物の姿も浮かぶが、そんな事があるはずないと、思想を振り払うように頭を振った。
「分かった。応戦する者には待機するように伝えておけ」
「はっ!」
「俺も一旦部屋を離れるけど、何かあったらポリゴン2もいるし……大丈夫だな?」
「う、うん……」
緊迫した空気に押されながらの返事を聞くなり、イッサは部屋から飛び出して行ってしまった。
突然の出来事で動揺や期待、不安などが一気に広がる。
メグミはベッドの上でただ祈るように手を握り、固く目を閉じていると、ドアを叩く音が耳に届いた。
しかしドアの向こうの人物に思い当たりがない。
イッサは今出て行ったばかりだし、ブソンならばノックなんてしないだろう。
だとすればバショウだが、返事をしても何も言わずにただただドアを叩いてくるのだ。
流石のメグミも様子が変だと感じ、警戒をしながらドアをゆっくりと開くと……。
「……キノココ?」
誰かと思えば、ドアの向こうにいたのはキノココだった。
人ですらなかった事に拍子抜けしたメグミが、ぺたりとその場に座り込む。
「脅かさないでよ……」
安堵の息をついたのも束の間、キノココの目つきが豹変して突然胞子を撒き散らした。
「なっ……!?く……ぅっ!」
(何……!?この胞子……!)
吸ったのは僅かな量だったが、急激に体に異変が起こる。
激しい倦怠感、そして強烈な眩暈。
それらを感じた瞬間にメグミの視界は黒に塗り潰され、彼女は症状に耐えられず倒れてしまった。
「よくやったぞ」
現れ、倒れるメグミを見下ろすのは、大層満足したような口ぶりのDrナナミ。
「手駒は多い方がいいからな。ただの小娘でしかないが、人質として有効に使わせてもらおう。……ん?」
気味悪く嗤うナナミに飛びかかる影があった。
イッサのポリゴン2が彼女を助けようとしたのだ。
「目障りな奴め……。やれ、“キノガッサ”」
命令を下されたキノココは強い光を纏うと、新たに格闘タイプを追加した進化系、キノガッサに進化した。
草と格闘タイプの相手にポリゴン2は一番ダメージを与えられる燕返しで応戦しようとするが、先制のマッハパンチを受けてしまう。
続けて宿り木の種を放たれ、身動きが取れない上に体力を奪われてしまうポリゴン2は、絞めつけてくる蔓に苦痛の表情を浮かべた。
「無駄な時間を過ごしたな。……さて、いよいよプロジェクトの完成フィナーレといこうじゃないか……!」
響き渡るナナミの笑い声。
意識を失ったメグミはそれを聞く事はなく、深い闇へと落ちて行った。
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