時刻は少し前に戻り、イッサとの通信を終えたバショウ達は同時に顔を顰めていた。
「参ったな……。ナナミの事はともかく、サツが来てるとは……」
「恐らくあのドラゴン使いのワタルも一緒でしょう。それと……」
「あの王子サマも……か?」
恐らく、と答えられたブソンは鼻で嗤う。
「ヘッ、上等だ……。早ェとこ出迎えてやろうぜ」
「……そうですね」
ナナミの行動が気がかりだが今は足止めをするのが先だと、バショウはブソンの後を追った。
ハガネールとエアームドをボールから出した状態で待機する2人の元に、ナナミの部隊の部下が何人か合流して来た。
イッサの指示を受けて前線に出ろと言われた者達だ。
しかしブソンはいい表情ではない。
正直、彼らを足手まといだと思っているからだ。
「テメェらは合図を出すまで引っ込んでろ。勝手な事しやがったらどうなるか……分かってんだろうな……?」
遠回しに『自分とバショウだけで充分だ』と、ギロリとアーボックの様な凄みのある睨みを部下達に向ける。
「ブソン。先にエアームドを偵察へ出して下さい」
「……ああ。その後の事は任せたぜ。……エアームドッ!」
ブソンの命令を合図に、小型カメラを付けられたエアームドが飛び立って行った。
モニターを食い入るように見ていたブソンが映された映像を見、エアームドに取り付けられたカメラが正常に作動しているのを確認する。
「座標も把握出来るようにしておいたから、これで遠くからでも攻撃が楽に出来るぜ」
「流石……用意周到ですね」
「っと……。どうやら警察共を見つけたみたいだぜ。こっからだと丁度真南の方角だ」
映し出される警官隊の驚いた数々の顔に、ブソンは小馬鹿にするようにまた嗤う。
「マヌケな面しやがって……。んじゃあ、後はお前に任せたぜ、バショウ」
「了解しました。ハガネール、方角は分かっていますね?」
唸るハガネールはパワーを溜める。
「雑魚に時間は取りたくありません。一度で決めさせていただきますよ」
一気呵成なバショウの言葉を聞き、パワーを溜め終えたハガネールは目標に向かって破壊光線を放つ。
それが命中したかどうかは、エアームドのカメラから伝わる映像……濛々と立ち上がる砂塵と、次第に見える警官隊の倒れた姿で容易に分かった。
「これで雑魚は片づいたな。あとは……厄介なドラゴン使いと王子サマだけだな」
「……その事ですがブソン」
「あ?」
「2対2で戦うよりも、どちらかを足止めして2対1に持ち込んだ方がいいと思うのですが……」
「そりゃあそうだけどよォ……。一体どうやって……」
ブソンの質問に対し、バショウは顎だけをしゃくる。
「……ああ、成る程な」
皆まで言わずとも理解したブソンはずかずかと部下に近づいて、先程よりもほんの僅かに柔らかい口調で言う。
「よう。折角だから、お前らにも頼みてぇ仕事があるんだけどよォ」
相変わらずサングラスの下からは睨みつけているが、部下達はそちらでなく、いささか変わった口調に困惑しているようで、ただただ黙って頷く。
「この先でトレーナーを足止めしてくれねぇか?2人のうちの1人でも構わねぇからよ」
「は、はいっ……」
「ただし……」
条件を付ける口ぶりに団員の肩が跳ねる。
「ヘマしやがったらどうなるか……分かってンだろうなァ?」
「ひっ……は、はいぃぃぃっ!!」
取って食うかのような言い方に完全に怯えた団員達は、情けのない声を上げながら配置に向かって行く。
「常々思っていましたが……ブソンは部下への“頼み事”が上手ですね」
「ああいう奴らは脅さねぇとヘマするからな。ちょっと脅かしてやっただけだって」
嫌味を言われているにも関わらず、ブソンは機嫌良くバショウには素の表情を見せて、丁度戻って来たエアームドからカメラを回収した。
「なあバショウ。どっちが来ると思う?」
ボールを手の上で弾ませながら問う。
「……ワタルでない事を祈ります」
神など信じないバショウの口から『祈る』と言う単語が出た時は、たいてい皮肉かその話に興味がないか。
彼が今のように答えたのも『ワタルは厄介だから出来れば戦いたくない』という気持ちの表れだった。
「奇遇だな。俺もだよ」
そう言いながら双眼鏡で辺りを見渡すブソン。
すると黒い何かが飛んでいるのが見えた。
ズームにして、その黒がリザードンで背中にアキラが乗っているのが分かり、ブソンは感心したように声を出す。
「やっぱり……王子サマのお出ましだぜ、バショウ」
ブソンは口角を上げながら言い、挨拶の代わりにエアームドに破壊光線の指示を出す。