研究室のほとんどは静まり返り、人の気配はあまり感じられなかった。
その廊下に響く足音。
「オイ!!どういう事だイッサ!?」
部屋に辿り着くなり、ドアを壊す勢いで開いて怒鳴るブソン。
対してイッサは毅然とした態度で彼に言い返す。
「そりゃあ俺だって聞きたい事だ。……どうしてナナミはお姫サマを連れてったんだ?」
「恐らく人質としてでしょう。警察の接近をいち早く察知したか、また別の理由なのかまでは分かりませんが……自分の身を第一に考えたのかと……」
「チッ……。つくづくいけ好かねぇ野郎だぜ……」
「陰口はそこまでにしとけ、ブソン。今研究所内のカメラやロックシステムのデータを全部このパソコンに移した。これで何か分かるとは思うんだけどな…」
画面いっぱいに様々な映像や文字が表示されたモニターを覗き込む2人。
「……ん?イッサ、今点灯したこれは何ですか?」
バショウが画面の隅の方を指す。
「メインラボのロックだな。ナナミと直属の部下しか入れないっていう……」
「今ここのロックが解除されたようですが……」
「……って事は、今誰かここにいるんじゃねぇのか?」
ブソンが何気なく言った一言に、2人はしばし黙り込む。
「……それだ」
「あ?」
「だからメインラボだよ!」
「ナナミはそこにいます」
自分の発言がきっかけになったと気づかないブソンは、頭に大きなハテナを浮かべる。
「一刻を争います。急ぎましょう」
「ああ」
バショウに促されて机に手を付いて立ち上がろうとするイッサの視界にP★DAが入る。
メグミからの伝言を漸く思い出し、イッサは部屋を出ようとしている2人を呼び止めた。
「ちょい待ち。……すっかり忘れるところだったぜ」
「どうした?」
「お姫サマから預かり物があった」
イッサの手には2つのモンスターボールが握られており、それを彼らに突き出した。
後に3人は二手に分かれ、バショウとブソンはナナミのいるメインラボへ、イッサは警察の動きを確認しに行く事になった。
「じゃあ健闘を祈る。……ヘマするなよな」
「ええ、あなたも」
「じゃあな」
2人を見送ったイッサはまずボールを投げる。
「出て来いクロバット!」
蝙蝠ポケモン、ズバットの最終進化形のクロバットが放たれ、イッサの周りをパタパタと羽ばたく。
「ドラゴン使いのワタル……いや、とにかくこっちに向かって来る奴がいたら足止めしろ。いいな?」
クロバットは頷くと4枚の羽根を羽ばたかせ、素早く倉庫を飛び出して行く。
「俺も出るとするか」
この研究所にはたいしたメカがないので、致し方なく使われずにいた薄汚れたバイクに跨がる。
少し小さい設計だが、まあまあの乗り心地だ。
「……行くか」
何かを決意した面持ちでヘルメットを装着し、エンジンを全開にバイクは発進した。
―――その頃、研究所のメインラボでは……。
「ククッ……。漸く完成する……。私の最高傑作……破壊の王者が…!」
ラボの中央に置かれていた巨大な固まりに付けられていたコードが1本、また1本外されていく。
やがてコードの隙間から黒い模様の入った、くすんだ緑色をした物が見えてきた。
「間もなく完成する……!その瞬間からロケット団は……いや、この世界は私の物になるのだ……!!」
独り、狂ったように笑うナナミ。
傍らには未だ気を失ったままのメグミがいた。
2人のいるメインラボに向かって駆けるバショウとブソン。
メグミを救出するべく、研究所を目指すアキラとワタル。
そしてその2人の接近を阻止する為にバイクを走らせるイッサ。
彼らを巻き込む黒い闇は広がり、胎動していた悪夢は今、始まりを告げようとしていた。
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