バイクはアクロバティックさながらの着地を決めると、アキラ達に向き直すように停止する。
(ドラゴン使いのワタルか……。隣のがブソン達の言ってた王子サマだな……)
バイクに跨がるイッサはヘルメット越しに蒼い瞳で2人を見つめた。
「ワタルさん!ここは俺が戦います!早く先に!」
ワタルはしかし……と言いかけたが、実際自分のポケモンでは不利なのが明確だった。
カイリューとリザードンは混乱と麻痺状態で思うように動く事すら出来ず、ギャラドスは相性でサンダースとは分が悪い。
「……すまない……!頼んだぞ!」
ポケモン達をボールにしまうと、イッサの乗るバイクの横を擦り抜けるように走った。
擦れ違いさまに互いに鋭い視線をぶつけながら。
(ワタルに基地まで行かれると厄介だな……。ここはクロバット達に任せて……)
アクセルを蒸し、うるさいバイクのエンジン音をまた響かせる。
するとイッサはアキラには見向きもせずに、たった今自分の横を過ぎ去ったワタルの後を追った。
「ま、待てっ!!お前の相手は俺だ!!」
「……熱いねぇ、王子サマ」
余裕の表情で呟いてサンダース達に合図をすると、2体は同時にアキラに襲いかかった。
「フシギバナ!避けろ!!」
まずはフシギバナに指示しながら相棒のサンドを繰り出すアキラ。
いよいよダブルバトルの開始。
最初に先手を取ったのはサンダース。
電光石火でサンドに体当たりするが、鍛え上げられたサンドの鋼の皮膚にはあまり効果はないようだ。
サンダースとは相性が有利だが、毒と飛行タイプのクロバットにはほとんどの技が効果が薄い。
(まずは地道にノーマルタイプの技で攻めるか……!)
「フシギバナ!体当たり!」
100キロの体を豪快にクロバットにぶつけるフシギバナ。
なかなか堪えたようで、クロバットの飛び方がさっきより不安定になる。
「よし!次は葉っぱカッターだ!サンドも続け!」
フシギバナの後ろを守るようにサンドも走る。
援護に回ったサンドが仕かけた技は岩なだれ。
少ない確率で相手を怯ませる効果のある技で、飛行タイプのクロバットには有効なのだが、それに怯む事なくエアカッターで効果抜群のダメージをフシギバナに与えてくる。
風の刃にも必死で堪えながら葉っぱカッターで相殺すると、今度は頭上からサンダースの放った雷が迫っていた。
それを電気技の効果をなくす地面タイプのサンドが庇い、フシギバナを守る。
訓練された動きに、アキラは苦虫を噛んだ表情になる。
(やっぱり素早さではこっちが負けるか……!少しでも動きを鈍らせてからじゃないと……!)
バトルに勝つ為、素早さに秀でたクロバットとサンダースの動きを封じようと、まずはフシギバナに指示を出す。
「フシギバナ!甘い香りだ!!」
背中の紅い大きな花を奮って独特の甘い匂いを撒くと、その匂いに捕われた2体の動きが鈍る。
その瞬間を逃す事なく、アキラは鞭を振るった。
「蔓の鞭で捕まえろ!!」
間髪入れずにフシギバナは鞭でそれぞれの羽根と脚を縛りつけて行動を不能にする。
これでもうクロバットもサンダースも逃げる事は叶わない。
「トドメだ!!フシギバナ、ソーラービーム!!」
狙いはサンダース。
背中の花の中央に光が徐々に集まりエネルギーを溜めていくと、クロバットがアキラを睨んでヘドロ爆弾を放つ。
「しまっ……!!」
予想外の出来事に動けずにいたら、咄嗟にサンドが身を挺してクロバットの攻撃から守ってくれたが、そのまま吹き飛ばされて大岩に叩きつけられてしまう。
「サンドッ!!……っ……フシギバナ!これで決めるぞ!いっけえぇぇぇーっ!!」
咆哮と同時にソーラービームが発射され、サンダースを飲み込む。
体力の低下で発動した特性の深緑の効果と近距離からの大技により、攻撃を受けたサンダースはその場に崩れた。
だが連続して技を出したフシギバナにも、疲労の色が濃く見える。
それを見たクロバットはチャンスだというように、鞭の拘束から逃れ出ようと無我夢中で羽根を羽ばたかせるが、フシギバナも離すまいと体を後退させながら応戦すると、カイリューの作った氷の床に乗り上げた。
(氷……?……そうだ!)
何かに気づいたアキラは一か八かの賭けに出た。
フシギバナが使える草や毒タイプの技はクロバット相手にほとんど効果がないが、使える技の中で唯一大きなダメージを与えられるものが1つだけある。
そのたった1つの希望に全てを賭け、アキラは吠えた。
「フシギバナ、自然の力っ!!」
雄叫びを上げるフシギバナは口元に溜めた力を一気に放った。
自然の力は使う場所に依って技自体が変化する独特の技。
氷の上で使った今は、冷凍ビームとしてクロバットに直撃した。
相性抜群の強力な一撃でクロバットは戦闘不能になり、そのままサンダースの傍らに倒れた。
「サンド!!大丈夫か!?」
自分を庇った相棒の元に駆け寄ると、サンドは頭をふるふると振って意識を戻した。
「良かった……!無事だったんだな。フシギバナもよく頑張っ…………っ!?」
アキラが頭を撫でた瞬間、大きな花がぐらりと揺れた。
「フシギバナ!?」
最後の技に全ての力を込めたのだろう、ズシンと音を立てながらフシギバナもゆっくりとその場に崩れた。
「っ……ありがとな……!後はゆっくり休んでくれ……!」
歯を食いしばりながらボールへと戻した後、アキラは先に行ったワタルに追いつく為に荒れ果てた戦場をサンドと共に駆け出した。