部屋に1人になったメグミはぼんやりとベッドで横になっていた。
何をするでもなく、意識を全て思考する為の器官に注ぐ。
(クロス達は無事かな……。……淋しいなぁ……)
ポケモンを持たない今の彼女はトレーナーではなく、ただの少女である。
そんなメグミは虚しさ、淋しさに体を震わせた。
「……静かだなぁ……。捕まってる時もこんな感じだったっけ……」
ふと思い返していると、その静寂がふいに破られた。
『コンコンッ』
メグミはバネのような勢いで跳び起きた。
今の音はドアのノック音でない。
彼女が見たのは、部屋にある唯一の窓。
向こうから華奢なガラスを突くのは、かつて対峙した事のある鎧鳥ポケモン。
メグミの胸が一気に熱くなった。
「まさか……」
窓を開放するとそのポケモン、エアームドは彼女を誘うように小高い丘の上へと飛び立つ。
アキラがメグミの部屋に来た時には部屋はもぬけの殻で、開けられたままの窓から吹き込むそよ風がカーテンを揺らすだけだった。
エアームドはメグミのペースに合わせて飛翔し、丘の上に立つ1本の木を目指す。
「ねえ!あなた……ブソンのエアームドよね!?」
追いかけながら問うがエアームドは無反応のまま、急にスピードを上げた。
「あっ……待ってよ!」
履き慣れないサンダルでは思うように走れず、エアームドとの距離はあっという間に広がっていく。
メグミが漸く追いついた時には、エアームドは太めの枝の上で待ちくたびれたと言うように、嫌みっぽく大きな欠伸をしていた。
「超ムカつく~っ……!私は空飛べないんだから、遅くて当たり前でしょー!」
主人の変な所にそっくりだと悪態をついていると、不意に頭上から声がした。
「カッカすんなよ嬢ちゃん。コイツには何言っても無駄だぜ」
聞き慣れた低めの声の方を向いた瞬間、突然顔に何かが落ちて来た。
顔面で受け止めたそれは、彼女の服とモンスターボール付きのベルト。
落としたのと声の主は勿論……。
「ブソン……!バショウも……!!」
(無事だったんだ……)
安心した眼差しを向けるが、2人の格好は最後に別れた時と変わっていた。
どちらもロケット団の象徴であるロゴ入りの上着を脱ぎ捨てているのだ。
加えて顔や衣服にも埃や泥汚れも見受けられる。
「ど、どうしたの!?その格好……!」
「……何でもありません。そんな事より、あなたに話しておきたい事があります」
様子からして、何かしらの出来事があったはずなのだが、バショウの強めの口調にメグミは一旦言いたい言葉を飲み込んだ。
「簡潔に言うぞ。今すぐワタルや王子サマ達を連れて、このレッドコアから離れろ。……話はそれだけだ。もう帰っていいぞ」
「は……はあっ!?」
唐突で勝手過ぎる言い分にメグミは裏返った声を上げた。
見開いた瞳は、傾き出した満月と同じぐらいに丸かった。
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