2人の姿が見えなくなっても佇むメグミは、今の短い出来事を思い返した。
(あんな格好してたら心配するに決まってるじゃない……。ブソンもバショウも強引だし……)
彼らの発言や行動から少しばかり欝な気持ちに陥る。
ところが、彼女の胸の内に1つ引っかかる物が現れた。
『これ以上あなたに話す事も、時間もないんです』
「時間がない……?……もしかして……!」
バショウが隠そうとしていた本意が見えかけた時、ポケモンセンターの方から自分を呼ぶ声がした。
振り返る先には、息を切らせてこちらに駆けて来るアキラの姿が見えた。
「アキラ!」
「はあっ……!やっと見つけた……!!何勝手に1人で出歩いてるんだよっ!!てっきりまたロケット団に連れて行かれたのかと思って、そこら中を捜し回ったんだぞっ!?」
怒りや心配、疲労の色を交互に出すアキラに謝罪を入れようとするが……。
「……ん?メグミ、その服とボール……」
ギクッとしたメグミは彼から目を逸らして嫌な汗を流した。
アキラはそれを見逃さず、すぐさま追い討ちをかける。
「両方ともロケット団に取られたって言ってたよなぁ?」
「……はい。言いました……」
「それが何でここに、メグミの手元にあるのはどうしてだ?」
「ぁ……えっと……」
メグミの目は左右に泳いでいる。
一度も視線が合わないじれったさから、我慢しきれなくなったアキラはついに核心をついた。
「……お前、ここでロケット団に会っただろ」
彼女の顔がサーッと音を立て、引き潮のように血の気を失った。
その表情と無言になる態度から、自分の答えは正しいと分かったアキラは大きな溜息をついた。
「メグミなぁ~……っ!」
「だ、だってアキラに心配かけたくなくて……!」
「だったら尚更だろ!!メグミを守るのが俺の役目なんだから!!」
もっと自分を信じてほしいと願いを込めてアキラは叫んだ。
その言葉にメグミは頬を紅潮させ、大きく開いた紫水晶色の瞳で彼を見つめる。
「……どうしたんだよ?」
「ふぇ!?な、何でもないっ!!」
首がもげそうな勢いで左右に振るメグミ。
「……?変なメグミだな……。さてと、メグミも無事だった事だし、ポケモンセンターに帰ろうぜ」
「そ、そうだね……!」
ぎこちない動作でアキラに追いつこうと足を前に進めようとしたその時、メグミの全身に凍る程の強烈な悪寒が走り抜けた。
蒼白し、鳥肌が立つ震えた体を抱きながら足を崩してしまう。
(な……に……!?この胸騒ぎ……!?)
覚えのある感覚。
それは研究所でナナミの最高傑作と呼ばれる、不気味な固まりを目の当たりにした時のものとほとんど変わらなかった。
「メグミ!?どうした!?」
「分からないっ……!でも……前にもこんな感じがあったの……!」
震えが治まる気配は全くない。
得体の知れない不安感から、彼女の絞り出した声すらも震える。
「……アキラ……!お願い、お兄ちゃんを呼んで来て!」
「ワタルさんを……!?」
「もしかしたら、ナナミかもしれない……!もしそうだとしたら、大変な事になる……そんな気がしてならないの!!」
証拠も根拠もない願い出だったが、懸命な説得にアキラは頷いた。
「……分かった……!でも俺が呼びに行く間はポケモン達といろよ!!絶対1人になるな!!」
心配をしたくない、かけたくないという両者の想いから、メグミはモンスターボールから相棒のクロスやアルダを出した。
懐かしさから再会を喜びたいところだが、そんな状況ではない。
「2人共、行くよ!!」
メグミ達は駆け出した。
バショウとブソンが向かった窮地へと―――……。