兄を呼びに戻ったアキラとフシギバナがこちらに駆けて来たが、短くなったメグミの髪を目の当たりにすると驚きから目を見開いた。
「メグミ、その髪……!」
「あ……これは自分でやったの……。気にしないで」
毛先を指でいじりながら苦笑するが、アキラはキッとした目で見ていた。
ついたじろぐが、よく見れば彼の視線は自分より後ろに向けられている。
そこにいたのは敵対していたバショウとブソン。
彼らも決していいとは取れぬ眼差しを送っていた。
完全に敵意を剥き出しにするアキラには、まず状況を説明しなければならない、そう思ったメグミは簡潔にナナミが敵だと伝えるが……。
「だけどメグミがこの件に関わる必要は……!」
「ある!超あるよ!だってここでナナミを倒さないと、またずっとロケット団に追われる日が続くんだよ!?」
全ての元凶がナナミにある。
それは分かっているのだが、アキラの決心はなかなか付かない。
ナナミを倒す事は構わないが、バショウ達と手を組む行為になるのが嫌なのだ。
彼は人一倍、正義や強さに誇りを持っていたから。
けれども、今はそれを尊重している場合ではない。
どうにかアキラの決意を固める方法はないかと考えていると……。
「盛り上がってるトコ悪いが……」
「私達はあなた方の力なんて必要としていませんよ」
唐突に特務の2人が言葉の刃で斬りつけてきた。
しかもどの有り様を見て物を言っているのだろうか。
「必要に決まってるでしょ!?2人のポケモン、もうボロボロじゃない!!」
「まだ戦える!!負けちゃいねぇ!!」
「そんな無茶な事言って……!エアームド達が可哀相じゃない!!あんなに弱ってるのに、まだ戦わせるって言うの!?」
メグミとブソンの口喧嘩にアキラは反応した。
かつて自分と戦った時もそうだった。
彼らは絶大なダメージを負ったポケモン達を倒れるまで戦わせようとしていた。
(もしここで俺が戦わなかったら……あのポケモン達は……)
ポケモン達への想いから、アキラはついに決心した。
「……分かった。俺も戦う」
「アキラ……!」
「だけど、別にロケット団に協力する訳じゃない。ナナミを倒す目的が同じだけだからな」
「……うん!」
漸くメグミに笑顔が戻った。
「ったく……ちっとも人の話を聞きやしねぇ……。どうする?バショウ」
「……これ以上は何を言っても無駄でしょうね……」
バショウも諦めたように呟く。
仕方ない、という言葉が付け加えられるが、アキラも参戦するのが決定した。
「……それで?嬢ちゃんの兄貴はどうするんだ?」
嫌みっぽく口にするブソンの言葉にメグミが振り返る。
「お兄ちゃん……!」
事態を見守っていたワタルはモンスターボールを手にした。
「……あまり感心は出来ないが……今はそうも言ってられないだろう」
そう言いながらボールを投げ、カイリューを繰り出すワタル。
「いきさつはどうあれ、ナナミを倒す目的が一緒なんだ。やむを得ないが、今は協力するしかない」
「……って事は……」
その場に集まった5人の意見が一致した。
ナナミを倒し、この戦いに勝つ。
だが5対1の不利な状況でも、ナナミはうっすらと嗤ってみせた。
「話し合いは済んだか……?しかしザコが何人集まろうが、私には絶対に勝てないがな……!!」
辺りを包むプレッシャーが更に増すのを全員が感じた。
「あんなリモコンなんぞ、なくても何の問題もない」
今までの行動が無意味だったと知らされ、いささか動揺するメグミと特務。
「見せてやろう!破壊の王の真の力を!!……さあ、目覚めろ!悪の帝王!!」
ナナミが叫んだ瞬間、タマゴに亀裂が走った。
「!!」
ヒビがみるみる内に全体に入ると、中から低い唸り声が聞こえた。
(この感じは……あの時の……!)
初めてあのタマゴを見た時に感じた恐怖がメグミの中に蘇る。
次の瞬間には、タマゴの殻は中から壊されて巨大な腕と尻尾が現れた。
「そんな……!」
「バカなっ……!?」
段々と見えてくる光景に、誰もが己の目を疑った。
ポケモンの常識を覆す研究。
それによって生み出された、恐ろしい力を持つ破壊の王。
今まさにそれがメグミ達の前に出現した。
ゆっくりと空を見上げ、並外れた巨体を震わせて広大な夜空に咆哮する。
緑を含んだ土色の体は、軽く3メートルはあるだろう。
タマゴから決して生まれる筈のない鎧ポケモンの名を、全員は驚愕して呟いた。
「バン……ギラス……!?」
悪夢という名を掲げ、バンギラスは5人を震撼させた。
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