アキラが向けている敵意は気づいているのに、わざとそれを無視しているだろうとバショウは呆れた息を吐く。
しかし何となくでだが会話の糸口と方法は分かった。
───要はポケモンの話題にすればいい。
しかも彼女のポケモンについて聞けば、強さの秘密も分かるかもしれない。
すぐにそう分析すると、話のきっかけになるものはないかと荷物を探る。
「……バショウ、何探してるの?」
グッドタイミングにメグミから声をかけられた。
まだ自分から話しかけるのに躊躇いがあるので、何とも好都合だ。
「ジュカインについて調べようと思いまして……」
「そっか。バショウは今までもハガネールしか持ってないって言ってたね」
ジュカイン、というより自分のポケモンとして特徴を教えた方が効果的だろうと思い、メグミは席を移動してバショウの隣に座る。
「ソプラの使える技は知ってる?」
「ナナミとのバトルで少々……。電光石火と連続斬り、高速移動にリーフブレード……。これは確認済みです」
「他にもフラッシュが使えるんだ。目眩ましに使えるよ」
「成る程……」
「あとはね……」
P★DAを出してソプラの説明を始めるメグミ。
バショウもやれば出来るものだと1人満足そうにブソンが感心している脇では、アキラがつまらないという雰囲気を醸し出していた。
今までメグミとの2人旅だったのに、余計な邪魔が入ったとブスッと膨れている。
しかも相手がロケット団ならば尚更だ。
彼もメグミと知り合う以前、ロケット団にサンドを拐われた経験もあり、余計に警戒しているのだろう。
―――だが、そのアキラの思考はあっさりとブソンに見破られていた。
「どうした?嬢ちゃんを取られて悔しいか?」
「だ、誰がだよっ!!俺はお前らがまた悪さしないように見張ってだな……!!」
「ンな事言ってる割りに、ずーっと嬢ちゃんばっか見てるじゃねぇか」
「うっ……」
図星の反応。
それを見たブソンは意地悪く笑う。
「ははーん……。さてはお前、嬢ちゃんに惚れ込んでるな」
「んなっ……!!」
アキラの顔がオクタンのように真っ赤になると、勢いよく立ち上がって怒鳴った。
「だ、誰がメグミに惚……っ!!」
「私がなぁに?」
いきなり立ち上がって名前を出されれば当然といえる反応をメグミがすると、アキラは慌てふためいて開いた手を大きく振った。
「ちっ、ち……ち、違うって!!た、ただコイツが急に変な事をっ……!」
素っ頓狂な1オクターブ高い声で否定すると、彼女は困ったように眉を垂らしてブソンを見た。
「もう、ブソンたら~っ。アキラをからかわないでよっ。アキラは真面目なんだから」
「へぇ~、マジなのか~……」
わざと違う解釈をしてニヤニヤと含みのある笑いを向ければ、アキラは耳まで真っ赤にして怒鳴り散らした。
「いい加減にしろーっ!!さっきから勝手に何を盛り上がってんだよっ!!」
肩で息をするぐらいに腹から声を出して叫ぶが、ブソンの涼しい顔は変わらず、それどころか「若いねぇ」と、ケタケタと笑われた。
「……2人は何の話をしてるんだろうね?」
「さあ……。まあ、あなたは知らなくても問題ないでしょうね」
はぐらかしつつもブソンの性格を知るバショウだ。
アキラの動揺する様などから、おおよその見当はついていた。
小一時間、バショウ以外の3人が騒いでいると、運転をしていた船乗りが声を張り上げた。
「オーイッ!!そろそろオーレ地方が見えるぞーっ!!」
まだ水平線には何も見えないが、船乗りの手元のレーダーにはオーレ地方の片隅が確かに映り始めている。
到着はもう間もないだろう。
そんな彼らが乗る船を灯台のてっぺんから見つめる不審な影があった。
「んん~?見かけない船が近づいて来るね~!何かな~!何だかワクワクするよ~!フッホホホ~!」
怪しい笑い、怪しいステップを踏む謎の人物。
「……またかな」
「まただろ。まったく、すぐバトルしたがるんだもんな~……」
後ろに立つ部下も呆れたように視線の先の船を見る。
「こうしちゃいられない!船着き場に行って迎えてあげなきゃ~!お前達、準備をするんだよ!」
「は、はいっ!」
ぎこちない返事で作業を始める部下を見、間もなく到着する船を派手なサングラスの下から楽しそうに睨む。
「匂うよ匂うよ!嫌な匂いがプンプン匂うよ~!フッホホホ~!この僕がギッタギタに倒してあげるからね~!」
目立つ紅白のアフロを揺らしながら男は軽快なステップを踏むと、何故かムーンウォークでエレベーターに乗り込む。
「あぁっ!!待って下さいよ!!」
「置いていかないでミラーボ様ぁ~っ!!」
―――謎のダンスマン、ミラーボがメグミ達とバトルをするまで、あと僅か……。
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