「アンタのどこがクールなのよっ!!ただの巨大アフロのファンキーダンサーじゃないっ!!」
「そんなに褒めないでくれよ~!フッホホホ~!」
「褒めてなーいっ!!」
真面目に構えていたメグミがミラーボ相手に怒りを露わにするが、本当の怒りを抱いたのでは彼女ではない。
言うまでもなくバショウ本人である。
何が腹立たしいかなんて野暮な質問は必要ないだろう。
自分を“ついで”呼ばわりされた挙げ句、おちゃらけたダンサーに“同種”だと言われたのだ。
「このアフロ野郎っ……!!人が黙ってりゃあ調子に乗りやがって……!!」
いきり立つブソンがボールを手をするが、隣のバショウも一歩前に出る。
「ブソンが戦うまでもありません。ここは私が徹底的に潰しておきます」
口調は普段通りに丁寧なのだが、バショウの発言には物騒な言葉が混ざっている事に、メグミは冷や汗を流した。
そんな彼らを余所に、当のミラーボはバショウ達を無視してアキラとメグミを交互に見る。
「……フフ~ン。でもやっぱり一番気に喰わないのは君達だね~!アイツらと同じ目をして……憎たらしいったらありゃしない!!」
「アイツら……?」
「って言うか、それって超八つ当たりじゃないのよ!!」
とことんバカにする態度にメグミの怒りにも火が点った。
なのにミラーボが指差したトレーナーは……。
「決ーめた!まずは君から潰してあげるよ!」
緑色の髪に鞭を携えた少年、アキラ。
散々ブソン達に無礼な発言を繰り返したのに結局相手に選んだのがアキラだとは、かなり自分の空気と世界を持っているのだろう。
「お前達も相手をしてあげるんだよ!フッホホホ~!」
指を弾くミラーボの後ろから現れたのは、彼の部下であるゴーグルを付けた2人の男。
「俺様はトロイ!」
「そして俺がヘボイだ!」
2つのコブの付いた帽子を被る男はトロイ、金髪のトサカ頭の男はヘボイと名乗る。
「スカした野郎は全員俺達の敵だ!!こてんぱんにしてやるぜ!!」
「トロイに……」
「ヘボイ……?」
名前を聞いたバショウとブソンから、一気に怒りが抜けた。
「アホくせぇ……。お前らみてぇなザコには用はねぇ。さっさと家帰って大人しく寝てな」
しっしっと小さな虫か何かを追い払う動作をするブソンに、怒りを抱くトロイとヘボイ。
「何だとォ!?」
「ちょっとばかし俺達より顔がいいからっていい気になるんじゃねえ!!やるぞトロイ!!」
2人とミラーボ以外は『ちょっとじゃないだろう』と思うが、面倒だったのでヘボイの発言にはスルーを決め込む。
そしてトロイはブソンに、ヘボイはバショウに向かって2つずつモンスターボールを投げると、それまでは彼らをザコ扱いしていたブソン達は表情を変えた。
トロイはバクフーンとムウマを、ヘボイはメガニウムとフーディンを繰り出したのだ。
「どうだ!!この最強のコンビネーション!!」
「絶対無敵!!俺達に敵なしだぜ!!」
自信満々に高笑いする2人。
一方、ブソン達の反応は……。
「……バショウ、分かってるな?」
「ええ、勿論です」
2人の瞳に宿る感情の炎はただならぬものだ。
実はこの2人、過去にたったの一度だけ任務を遂行出来なかった汚点を持っていた。
ジョウト地方を雷雲をまとって駆け抜ける雷ポケモン、ライコウの捕獲を担った時にその汚点が生じた。
たまたまライコウの捕獲現場に居合わせたトレーナー達に幾度となく邪魔をされた上に捕獲用メカを破壊されてしまい、ライコウの捕獲が不可能になってしまったのだ。
その時、彼らの障害になったトレーナーのポケモン達が今、綺麗に目の前に並んでいる。
元からプライドが高いバショウ達にこの相手は、因縁も因果も引っくるめて不愉快でしかない。
互いにアイコンタクトで『全力で倒す』と送り合い、各々のベルトに手を伸ばす。
ブソンは自慢のエアームドと一緒に、バクフーンを警戒して水タイプのテノールを繰り出した。
恐らくアキラやメグミが彼の立場ならば、リベンジマッチと称して元からの自分のポケモンを出すのだろうが、ブソンにそんな感情はない。
ただこの目の前にいる奴らを戦闘不能にすればいい。
その考えから、馴れ合うつもりもないテノールをバトルに出したのだ。
しかしバショウはそうもいかない。
彼のポケモンは2体しかいない為、仕方なしにハガネールと一緒に出すのはジュカインのソプラである。
だがバクフーンが相手でなくて内心ホッとするバショウ。
ハガネールとソプラでは、炎タイプ相手にかなりの苦戦を強いられただろう。
とは言え、現実もタイプの相性では苦慮せざるを得ない状況のバショウだった。