無我夢中で走り続けるメグミは大樹の前に辿り着いた。
乱れた呼吸を整えようと木に手を付けて屈んでいると、上から木の葉がひらりと落ちて来る。
「……風もないのに……。……っ!?」
見上げると、真上からエアームドが自分目がけて飛びかかって来ていた。
「きゃあっ!!」
ギリギリの所で攻撃を避けると、次はサングラスをかけた男が降りて来た。
「よくあの距離で避けきれたな。なかなかやるじゃねぇか」
現れた彼の胸にもロケット団を主張するRの文字が。
「ロケット団……!?さっきの奴の仲間ね!?」
「よく分かってるじゃねぇか嬢ちゃん。なら話は早ェな。俺達と一緒に来てもらおうか」
「……嫌だって言ったら?」
言いながらボールに手をかけるメグミ。
「当然。力ずくで来てもらうぜ!」
ブソンは先程のエアームドと一緒にヘドロポケモンのベトベトンを繰り出して来た。
言葉なしにダブルバトルが決定する。
「クロス、レーベ!お願い!!」
ブソンのポケモンに対抗するのはクロスと放電ポケモン、ライボルトのレーベ。
あまりダブルバトルに馴れていないメグミだが、そんな事を言ってる余裕は微塵もない。
「エアームド、乱れ突き!!」
「迎え撃って!!」
2体の嘴と爪がぶつかり合い、その度に小さな火花が散る。
次に行動を起こしたのはメグミの方で、既にレーベの体は電気を帯びていた。
「ベトベトンにスパークよ!!」
「させるかよ!エアームド、砂かけだ!!」
突撃するレーベに大量の砂が浴びせられ、怯んで攻撃が中断されてしまった。
「そのまま掴んで上昇しろ!」
無防備になっていたレーベはエアームドの鋼の足に掴まれ、身動きが取れないまま体を宙に浮かせられる。
「まずはライボルトからだ!ベトベトン、ヘドロ爆弾!!」
地上にいるベトベトンはレーベに狙いを定めると口から茶色い固まりを発射した。
「クロス!燕返し!!」
ヘドロの固まりを一刀両断すると、そのままベトベトンに切りかかるクロス。
「溶けて防御だ!エアームド、もっと上昇してそいつを叩き落としちまえ!」
ほぼ液体と化したベトベトンに攻撃の威力はほとんど消されてしまい、ダメージは絶無だった。
そしてエアームドはぐんぐん上昇していて、既に高度は大樹のてっぺんにまで達していた。
「あんな高さから落ちたら……!」
(こうなったら相打ち覚悟じゃないと……!)
メグミは決心すると、遥か上空にいるレーベに向かって叫んだ。
「レーベ、雷よ!!」
「なっ……あの体勢で雷だと!?」
真上に雨雲を作りだすと、自分の体から火花を散らす。
「まずい……!エアームド、そいつを落とせ!」
「足に噛みついて!絶対放しちゃダメよ!」
もがくエアームドを見つめるブソンは舌打ちをする。
「チッ……!道連れにする気か……!」
徐々に大きくなる黒い雲。
しかしエアームドは足を噛みつかれたまま雲の下から脱出してしまう。
「へっ。いくらデカい雷でも、あの距離じゃ当たらないぜ」
勝利を確信したブソンは微笑するが、メグミも同じ表情をしてみせた。
「……どうかしらね」
雨雲を見据え、メグミは命令を下した。
「今よ!雷っ!!」
激しい雷電が起こるが、やはり距離がありすぎて当たりそうにない。
「残念だな!!この勝負もらったぜ!!」
「勝った気になるのは早いわよ!!レーベ、避雷針発動!!」
レーベは雷雲と自分の間にエアームドが挟まるようにたてがみを向ければ、雷の方向がずれて2匹に一直線に迫る。
「っ……しまった!!」
時は既に遅く、エアームドは効果抜群の攻撃をもろに受けた。
押しつけられるような爆音と閃光が深い森を覆う。
これには流石のブソンも怯まずにはいられなかった。
「レーベッ!!」
メグミは落下して来るレーベをかろうじて受け止めるが、自らの技とはいえ電撃を受ける構えを出来なかったせいか、彼にもかなりのダメージが窺えた。
エアームドの方も致命傷を負ったようだが、その目にはまだ闘志が宿っている。
(このままレーベを戦わせる訳にはいかない……!)
「レーベ、戻って……!」
彼の身を案じて代わりにアルダを出すメグミ。
ブソンの方はまだエアームドを戦わせるようだ。
「エアームド、眠って体力回復だ!!」
(回復されちゃう……!迷ってる暇はないわ……!)
「アルダ、フルパワーでオーバーヒート!!」
一気に勝負をつけようとする焦りからか、メグミは効果抜群になる炎タイプ最大級の技を命令する。
―――しかし……。
「小さな焦りは大きなミスを生むんだぜ?お嬢ちゃん……」
再びブソンは勝利を確信した。
『ドォォォォォォォォォンッ!!』
アルダの灼熱の炎がエアームドとベトベトンのいた場所に直撃した。
この激しい爆発で砂塵が舞い上がる。
「2人共、油断しないで!」
果たして今ので勝負はついたのだろうか……?
「なかなか楽しかったぜ。でもこっちも色々と忙しいんでな。そろそろお開きにさせてもらおうか」
予想外の場所からブソンの声がした。
その声はさっきいた位置からかなり離れた場所からだった。
「い、いつの間に!?」
クロス達も一緒に辺りを見回すが、彼の姿は煙と霧で全く見えなかった。
「ど、どこ……!?」
「悪ィな嬢ちゃん。ちょっとばかり寝ててもらうぜ」
不意に肩を掴まれて条件反射で振り返った瞬間、メグミの顔に薬品に浸された布が押し当てられる。
甘ったるい匂いに、すぐに意識が朦朧とした。
「少しの間寝てろよ。悪いようにはしねぇつもりだ」
耳元で呟くブソンの声は遠のき、メグミは彼の胸の中へと沈んでいった。
「お前ら、嬢ちゃんを助けて欲しいならボールに戻りな」
技を出す体勢をとっていたアルダとクロスだが、このままではメグミまで巻き込んでしまう。
主人である彼女に攻撃の影響を与える訳にはいかず、悔しいがブソンの言う通りにするしか選択肢はなかった。