ショップに入った彼らを迎えたのは、赤いバンダナがトレードマークの男。
カウンターに腰かけて商品を手入れしていた。
「いらっしゃい」
あまり感情の篭らない挨拶をしてすぐに頭を下げるが、間際にレオの姿を捉えると態度をがらりと変えた。
「あ!レオさん!?」
「久しぶりだな、ザック。今日は頼みがあって来たんだ」
「レオさんの頼みなら何だって聞くよ!」
成り行きはいい方向に間違いなく向かっている。
余計な事はせず、メグミ達は交渉を彼1人に任せる事にした。
「バイクを貸して欲しい。ホバータイプの物を、最低でも2台」
「ホバータイプか……。ちょっと倉庫を見て来るから、それまで店内を見ててよ」
「ああ。ありがとう」
店員ザックが従業員用の勝手口から出て行くと、4人はホッと胸を撫で下ろした。
「ありがとう、レオ。レオがいなかったら、私達……何も出来なかったわ」
「俺もミラーボについて情報を貰ったからな。ほんの礼だ」
少しだけ空いた時間、各々バラけて店内を回る。
ジャンクショップだからか、製品より部品の数が棚のほとんどを占めていた。
ネジ1つにしてもたくさんの種類があるようで、素人でも違いが分かるように丁寧に陳列されている。
機械にあまり触れる事のないアキラやメグミでさえ興味を持っていたのだから、機械に精通しているブソンからすれば、この店全部が宝の山だろう。
じっくりと手に取って眺め、くるくる回して条件に合う物を探していた。
「何か探してるんですか?」
「……いや、別に」
バショウの投げかけに短く答える。
「ただ、この数……全部に行き届いた手入れをするなんて、よっぽどの物好きがやる事だと思ったんだよ」
それでもバショウは長年の付き合いから
「うっかり衝動買いはしないで下さいよ」
と小さく苦笑いを浮かべるのだった。
彼らが1つの棚を見終えた頃、突然入り口のドアが勢いよく開いた。
飛び込んで来たのは、倉庫に行くと言って出て行ったザックだ。
「た、大変だぁ!!」
近くにいたアキラに縋るように這うザック。
「どうしたんだ!?」
「へ、変な6人組がやって来て、いきなり攻撃を……!!」
「6人組?どんな奴だ?」
「と、とにかく変で……。あぁ!何か戦隊ものみたいな色違いのスーツを着てたよ!」
人数や特徴などからミラーボではないと判断するが、ザックはまた思い出したように言った。
「そ、そうだ!レオさんのバイクが奴らに……!!」
アイオポート入り口に停めていたバイクからは黒い煙が上がり、パーツのいくつかもかなり破損してしまっていた。
どう見ても動きそうにもない。
「怪しい動きをしている人影があったから見に来たんだ。そしたら6人組がバイクを囲んでたんで声をかけたら……」
「攻撃されたと……?」
「はい……」
「でもザックさんに怪我がなくて良かった。だけど……」
落とした視線の先には壊されたバイク。
レオもさぞかし落ち込むか怒りを露わにしている事だろうと思っていたが、本人は何ら変わらぬ表情で立っていた。
「バイクぐらい、直せばどうにでもなる」
それだけ言うとザックの肩に手を置く。
「修理するのに店を借りていいか?」
「勿論だよ!俺も手伝うよ!」
2人でバイクの後方に回ってショップまで押そうとするが、大きすぎてなかなか動かない。
アキラも協力するが、それでも辛うじて前に進む程度だ。
「オイ!お前らもボサッとしてないで手伝えよ!」
アキラが睨みつけるのは、傍観していたブソンとバショウ。
利益のない事には一切関与しないスタイルが苛立ちの要因にしかならなかったらしく、彼からひどく怒鳴られた。
仕舞いには
「その筋肉は何の為に付いてるんだよ!!」
とまで言われたブソンも、黙ってはいられない。
「あァッ?お前が貧弱なのが悪ィんだろうが!」
売り言葉に買い言葉。
2人はまるでザングースとハブネークのような、相成れない仲になってしまっていた。
(どうしてアキラとブソンは一緒になるとこうなっちゃうんだろう……)
同じ事の繰り返しに溜息を吐くメグミ。
バショウも相棒の子供じみた部分には頭を痛めているようだ。
とにかく仲裁に入ろうと、バイクを押す2人の間にバショウが割って入ってので、メグミも彼に続く。
「私も手伝うよ」
自分だけ手を貸さないのは申し訳ないと思ったメグミが言うも、男5人が既に作業をしていて入るスペースがなかった。
仕舞いにブソンから言われたのは
「嬢ちゃんはその辺で遊んでな」
……つまり邪魔らしい。
「何よー!そんな言い方しなくたっていいじゃない!」
フンッと彼らに背を向けた彼女が空を見上げると、飛行機がレオのバイクのように黒い煙を吹いて飛んでいた。
―――いや、高度が落ちている。
どうやら着陸しようとしているようだ。
「……何だろう……」
どうせ邪魔者扱いされているんだから離れてもいいだろうと、飛行機が降りるであろう場所に向かうメグミは、新たな出会いがある事をまだ知らない。
砂漠の地、オーレ地方での数々の巡り逢いが起こる旅は、まだまだ始まったばかりである―――……。
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