青ざめて狼狽するメグミを余所に、男性は平然と頭からファイヤーを降ろしていた。
「いや~。元気のいいファイヤーだな~」
「……へっ?」
伝説ポケモンを目にしているはずなのに、普通の反応をする男性に驚くメグミが彼の方を向き直る。
初めて見る男性の姿は赤い帽子を被って茶色系の飛行服を着ていたが、さっきの煙のせいで全身が汚れてしまっていた。
「元気あるのはいいけど、トレーナーの言う事は聞かなきゃダメだぞ」
優しい口調でファイヤーを叱ると、抱き上げたファイヤーをメグミに手渡す男。
「君のだろ?」
「は、はいっ……。……あの……驚かないんですか?」
受け取ったファイヤーを抱いて、眉を下げつつメグミが尋ねるも、しかし男性は帽子の汚れを叩きながら
「別に驚く事はないさ」
と言ってのけた。
「まぁ……話は後だ。さっきはありがとな。お蔭で一先ずだが修理出来たぜ」
得意満面の笑顔で男は親指を立てるが、直後にボスンッと飛行機が悲鳴を上げて傾いた。
同時に目が点になり、口元が引きつる。
つい傾いた飛行機を見遣るメグミに向かい合う男は、乾いた笑いを浮かべて頭を掻く。
「ハハ……ハ。あー……その……機械の部品とか扱ってる店とか知らないか?」
「あ……丁度連れが行ってるお店がありますよ。工具とか色々売ってましたし……」
答えながらメグミはポケットからハンカチを差し出す。
「良かったら使って下さい。お顔、汚れちゃってるんで……」
手袋も汚れているせいで、顔を拭っても汚れが広がるばかりなのを見兼ねての行動に男は遠慮する仕草をするが、却ってメグミに失礼だと思いハンカチを受け取った。
「洗ってから返すよ」
顔を拭う男性がそう言うが、メグミは「気にしなくていいですよ」と、答えるが
「いや。色々して貰った礼だ。そのぐらいはさせてもらうぜ」
そう言って彼はポケットにハンカチは仕舞った。
「じゃあ……お願いしますね」
無理に返してもらうのも悪いので、メグミはそのままハンカチを託す。
その時彼女は自己紹介をしていなかった事に今更気がつくと、丁寧に手を体の前で揃えて一礼した。
「私、メグミって言います。このサンドパンは相棒のクロスです」
言われて気づいたのか、男性も赤い帽子を被り直してそれに答える。
「さっきは暗くて分からなかったけど、色違いのサンドパンだったのか。……俺の名前はダツラだ。長旅の途中だったんだが……見ての通り、飛行機がトラブっちまってこの有様だ」
ダツラと名乗る男が自身を皮肉るように言う言葉に、メグミは口元に手を添えて笑った。
「クロス……っていったな。お前もありがとな」
頭を撫でられて嬉しそうにするクロス。
ほほえましい様子に和むメグミだが、早い修理が必要だろうと、店までの案内を名乗り出る。
「それじゃあ行きましょう、ダツラさん。私の連れもそろそろ行かないと心配するでしょうし」