しばらく時間を置くと、漸く事態を理解したシャドー戦闘員が叫ぶ。
「お、俺のトドグラーがっ!!」
「メリープがスナッチされちまったぁ~!!」
途端に取り乱すジキルとテトル。
駆けうけた他の戦闘員もダークポケモンをスナッチされたと知ると、あたふたして騒ぎ立てる。
「ど、どうすんだよ!?戦力になるポケモンはもういないぞ!?」
「寧ろ戦わせるポケモンすらいないし!」
「お、お前ら落ち着け!ここは勿論っ……!!」
睨み合うメグミ達と戦闘員。
だが、戦闘員らはあっさりと背中を見せて逃げ出した。
「逃げるが勝ちだっ!」
「次会ったら6倍パワーでボコボコにしてやるからな!」
「覚えてろーっ!!」
口々に安っぽい台詞を叫んで岩場に隠していた赤いトラックに乗り込むと、シャドー戦闘員の愉快な6人は逃げ去ってしまった。
トラックが見えなくなると、ぺたりとメグミはしゃがみ込む。
「な、なんか疲れたぁ~……」
「でもメグミさんのお蔭でダークポケモンを2匹も助ける事が出来たよ!ありがとう!」
リュウトと共にイーブイも肩に乗って笑うと、ひと区切りがついたところでバショウが口を開いた。
「……それで、君は誰ですか?」
バショウの言葉で5人の目がリュウトに向けられる。
「あっ!僕はリュウト。最近ポケモンの盗難とダークポケモンの噂が増えてて、相棒のイーブイと調べてる途中……」
「あああぁぁっ!!」
突然メグミが素っ頓狂な声を上げて立ち上がる。
「レオ!リュウトくん!この近くにポケモンセンターはある!?ヨーギラスが毒を受けちゃったの!」
用意していた毒消しも、今の騒ぎで容器が破損して使えなくなっていたのだ。
「ポケモンセンターか……。この近辺にはないな……。もう少しでアゲトビレッジに着くが、それまでヨーギラスの体力が持つかどうか……」
「そんなっ……!!」
レオが答えると、メグミは今にも泣き出しそうな顔でヨーギラスをギュッと抱きしめる。
するとリュウトが彼女の肩を優しく叩いた。
「メグミさん、僕に任せて」
リュウトは自信に満ちた顔でそう言う。
「チルタリス!ヨーギラスの毒を消すんだ!」
投げたボールからハミングポケモン、チルタリスが現れて美しい音を奏でた。
「この技は……!?」
「まさか……癒しの鈴……?」
鈴の音のような歌声が響き渡ると、ヨーギラスの顔色が段々と良くなって、呼吸も調ってきた。
「これでもう大丈夫だよ」
「ありがとう、リュウトくん!チルタリス!」
健康になったヨーギラスを抱き上げて乱舞するメグミ。
しかし、はたとある事に気づいた。
「チルタリスって、癒しの鈴を覚えないよね……?」
忘れがちな事だが、メグミの兄はドラゴン使い。
勿論兄に習ってドラゴンポケモンの事をみっちり学習してきた彼女の記憶が正しければ、癒しの鈴は覚えないはずだ。
「……実はこのチルタリス、元ダークポケモンなんだ。詳しくは分かってないけど、心を閉ざされたポケモンの中には、稀に通常では覚えない技を覚えるのもいるんだ」
リュウトの説明に驚く一同だが、周りは戦いで一層荒れ果てた岩場。
どうも長話する雰囲気ではない。
「こんな所で立ち話もなんだし、早くアゲトに行こうよ」
「メグミさん達もアゲトビレッジに行くの?丁度良かった!僕も用があったんだ!」
「用事ィ?」
ブソンがオウム返しに言うと、リュウトはあるボールを出して言った。
「ブーバーがリライブしそうなんだ!早く心を開いてあげないと!」
その表情からは、長い道程を経た苦労と喜びがひしひしと感じられる。
「そっか……。良かったね!ダークポケモンを元に戻せるなんて!ブーバーかぁ……。どんな技を覚…………あああああ〜っ!!そうだ!クロスッ!!」
ブーバーの赤からの連想で負傷したクロスの事を思い出すと、メグミはまた大きな声を上げた。
「今度はどーしたぁ?」
そう言うブソンの口ぶりはほとんど呆れ気味。
「クロスの爪が割れちゃったの~!早くポケモンセンターに行かなきゃ!」
涙目で訴えると、アキラは頭の後ろで手を組んで
「メグミにしちゃあボロボロだな」
と、呟く。
「それじゃあアゲトビレッジに急ごう。またメグミのアクシデントが見つかる前にな」
からかい半分で言ったレオの言葉に、ブソンとバショウは納得を示すように頷いた。
バイクに乗ってエンジンを蒸すと、ブソンは自分の脇を通過するメグミを見遣った。
「リュウトくん、後ろに乗っていい?」
「いいですよ」
「ありがとう。ヨーギラスにゆっくり景色を見せてあげようと思って」
つまり、ブソンのバイクでは危なくて出来ないからという事だ。
メグミに悪気はないのだが、ブソンはムッとして
「余計な時間かかったんだからさっさとしろ」
と、あからさまに不機嫌に言った。
それを合図に走り出すバイク。
イーブイを両腕の間に立たせて運転するリュウトの後ろに座るメグミは離れる岩場を見つめた後、視線を晴れ渡る青い空に移した。
その膝の上に座るヨーギラスの表情の小さな変化を知る事なく―――……。
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