「まさかミレイがローガンさんの孫だったなんて……」
「えへへ~、驚いたでしょっ?」
案内されたミレイの家は、アゲトビレッジの高台にある木と一体化したもので、ついさっきブソン達と見上げていた場所にあった。
つまり、ローガンの家とミレイの家が同じという事になり、彼女が孫だと知るきっかけになったのだ。
ミレイの祖母、セツマにポケモンの治療を任せてる間に簡単に自己紹介を済ませ、話は全員が抱いた質問に戻る。
「実はミレイはダークポケモンを見分ける事が出来るんだ。以前はその能力のせいで、シャドーに捕まったりしたがな」
「だけどレオがすぐに助けてくれたのよ!あの時のレオは本当にカッコ良かったんだから!」
「……ミレイ、俺に喋らせてくれ」
割り込まれた上に自分の事を自慢げに話されたレオが呆れと照れを半分ずつにして言うと、ミレイは申し訳なさそうに一歩下がった。
「勿論ボールから出さないとダークオーラは見えない。……メグミ、やっぱりそのヨーギラスはダークポケモンとは違うみたいだ」
「!」
リュウトからも似た事を言われていたので、薄々感づいていたものの、初めて断言に近い言われ方をされて驚きを隠せなかった。
「僕のスナッチマシンにもダークオーラを見分ける機能が付いてるんだけど、メグミさんのヨーギラスには反応がないんだ。僕らがスナッチしたダークポケモンとは違う方法じゃないと、心は開けないかも……」
眉を下げて言うリュウト。
メグミやアキラ達も黙ってしまう。
ここまで来たのは無駄だったのだろうか。
そんな時、部屋の扉が開いて老人が現れた。
立派なヒゲを携えたその容姿は、さっきバショウが持つ本で見たばかり。
「おじいちゃん!」
「って事は……伝説のトレーナー、ローガンさん!?」
ミレイが老人を『おじいちゃん』と呼ぶと、驚倒したアキラは思わず立ち上がる。
蓄えたヒゲと眉で細かい表情までは伺えないが、ローガンは穏やかに微笑んでいるようだ。
「そう呼ばれていたのは昔の事じゃ。今はただの老いぼれじゃよ」
「おじいちゃん、急にどうしたのっ?」
「ミレイがこんなにたくさんの客を連れて来るなんて珍しいからのう。……ここに来たという事は、心が開きそうなポケモンがいるんじゃな?」
ローガンは言いながらレオとリュウトを見遣ると、リュウトが1つのモンスターボールを取り出した。
「ほう……。もうリライブ出来る状態になったのじゃな。良かったら、君達も一緒に来なさい」
同行するように促されたメグミ達はバショウとブソンとも顔を見合わせ、話の流れに任せるように席を立った。
「アゲトビレッジは村全体の高低差が激しいんですね」
内容の割に、疲れを微塵も感じさせないようにバショウが言う。
「自然そのままの創りを活かしておるからな。ポケモン達も生き生きとしているじゃろう?」
ローガンの視線の先には水辺で戯れるハスボーとトレーナーの姿があった。
他にもグラエナを連れた女性や、スバメを肩に乗せた老人の姿もある。
そんないくつかのトレーナーの姿を見ながら坂を下り続け、村の最下部に漸く到着した。
薄暗い洞窟だけがあり、中の様子は伺う事が出来ない。
先が見えない恐怖にヨーギラスがメグミの、メグミがブソンの後ろに隠れる。
「何してんだよ」
「だって暗くて怖いんだもん……」
普段と比べて明らかに声のトーンを下げて言われたブソンは、溜息を吐く以外に何も出来なかった。
「あんまり服引っ張んなよ」
どうせ『離れろ』と言っても無駄だろうと判断し、彼はそうとだけ言って歩き出す。
「……メグミさんって怖がりなんだね」
「ハハ……。野宿の時はいつもあんな感じだけどな」
暗闇に脅える彼女の姿を思い出し、つい苦笑いするアキラ。
その後ろでミレイがレオの腕にしがみつこうと試みて失敗する様子を見ながら、バショウが最後尾について歩いた。
数分程度歩くと、漸く外の光が見えてきた。
より深い緑の香りが、洞窟の中にまで吹き込んでくる。
そして視界が開けると、全員は思わず息を飲んだ。
「綺麗……!」
最も相応しい言の葉をメグミが紡ぐ。