シャドーが活動していた当時やスナッチしたポケモンの話を聞く内に、外はかなり暗くなっていた。
明日はこれからの事を相談しようと決め、メグミ達は就寝する事に……。
初めてのオーレ地方での夜に、メグミはヨーギラスを隣にして横になるが、どうも眠れなかった。
ぐるぐると頭を回る、取り巻く様々な出来事。
ヨーギラスのリライブ。
ミラーボを始めとするトレーナーが、ダークポケモンを利用している事。
二度オーレ地方を征服しようとしたシャドーが三度動き始めている可能性。
(私にはスナッチする力も、ダークポケモンを見分ける能力もないけど……やっぱり気になるよ……)
自分はやはり正義感の強いポケモンGメンの兄と同じ血を継いでいるんだ。
そう自覚した瞬間にハッと目を見開いた。
(いっけない……!お兄ちゃんにオーレに着いたって連絡してなかった……!!)
周りで寝ているみんなや、隣で眠るヨーギラスにも気づかれないように静かに起き上がるメグミはP★DAを開く。
時刻は日にちが変わる前だが、眠りに就いていてもおかしくない頃。
メグミは悩みに悩み、無事にオーレに到着した事をメールという手段でワタルに伝える事にした。
とは言え、あまり物音を立てていい雰囲気ではない。
(……外に行けば大丈夫……だよね)
抜き足、差し足、忍び足。
一定のゆっくりしたテンポで歩くメグミだったが、1つの寝床が空なのに気付いた。
リュウト以外、頭まで毛布を被っているせいで誰がいないのか分からないが、まずは兄への連絡が優先だ。
メグミは細心の注意を払いつつ、乱れたリュウトの毛布を直して家の外へと向かった。
やはり豊かな自然環境があるからか、アゲトビレッジの空気はアイオポートなどと比較しても格段に澄んでいる。
空も高く、広い空には数え切れない程の星が瞬く。
「ここなら大丈夫だよね。えっと……」
P★DAを開いた時、ふと近くに気配を感じたメグミ。
その気配の方向を向くと、いつかの夜に似た景色が見えた。
月ではなく、夜の空に溶けてしまいそうな横顔は、どことなく寂しさを感じさせる。
少しばかり不安を抱くメグミが、部屋から姿を消していた彼の名前を呼んだ。
「バショウ」
呼ばれてもあまり驚いた様子を見せる事なく、ゆっくりと彼女に向き直る。
「眠れないの?」
「……ええ。色々思う事がありまして」
「そっか……。私もなんだ。たくさん考えてたら、頭いっぱいになっちゃって……」
一旦手にしていたP★DAを閉じ、バショウの隣まで歩くメグミ。
「……あなただけですか?」
「うん。みんな寝てたよ。やっぱり疲れてるみたい」
「そうですか……」
それだけ言ってバショウはまた空を仰いだ。
やはりその表情は憂いを秘めているようで……。
「……バショウ、何かあった?」
的確で、でも少し的外れな質問にバショウは視線を夜空から青髪の少女に移した。
「アイオポートを出てから、あんまり喋ってないなと思って……」
彼が普段から自発的に喋るような性格でないのは分かっているが、最近はそれが心配に感じさせる要因になっている。
アイオポートでミラーボとバトルした時も、彼とブソンは自分とは離れた場所にいたし、シャドー戦闘員とのバトルの際はリュウト以外の全員と隔離されていたから、バショウに何があったのかメグミは知らない。
「落ち込んでるのとは違うんだろうけど、何か元気がないと思って……。私はそんな時、アキラに相談したりして解消するんだ。……でも話したくない事とかもあるだろうし、深くは聞かないよ」
旅の仲間の中でバショウが一番信頼しているブソンにすら言えない事もあるだろうから、と真摯な眼差しを向けて少女は言う。
けれどバショウは目線を彼女から足元に下げてしまった。
少しばかり沈黙が2人を包むと、彼に悪いと察したメグミが一歩後退した。
「あんまり考えすぎないでね。じゃあ私、先に戻ってるから。バショウも寝不足にならないように、早めに……」
気遣いの言葉は突然遮られた。
「1つ……頼みがあります」
予想もしていなかったバショウの切り出しに、つい目を見開くメグミ。
過ごした時間は長くなくても、彼から頼み事なんてたったの一度でもなかったのだから、無理もない。
「私に……協力出来るなら……」
「寧ろあなたにしか頼めない事です。いいですか?」
疑問形の台詞だが、どこかに断らせたくないという想いが混ざっていて、同意以外を許さないような言葉。
メグミが恐々頷くと、バショウは「感謝します」と簡潔に言い、腰のベルトに手を伸ばすなり唐突すぎる事を言い出した。
「今、ここで私とバトルして下さい」
「えっ……!?」
突き出されたモンスターボールに、驚きを隠せないメグミの顔が映る。
その真意は謎のまま、不似合いな爽やかな風が2人の間を吹き抜けた。
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